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第75回 カフェ新町ミント 松山幸藏さん 松山明美さん

きっかけはリノベーション
そこから始まり広がる新たな楽しさ

 

猛暑日が続く8月、新町通りでお店を始めたという「ミント」さんを取材。お店の軒先に吊られた風鈴が少しだけ暑さと緊張を和らげてくれました。暖簾をくぐると店内は開放感と趣ある素敵な空間。心地よい音楽が流れる中、出迎えてくださった店主の松山幸藏さんと奥様の明美さんにインタビューさせていただきました。

カウンターを置いてみたら

―こちらのお店はいつオープンされたんですか?
松山幸藏さん 以下 幸藏さん)去年の8月2日です。

―8月2日、今日?!、本日1周年ってことですか?!
幸藏さん)はい、そうです。

―おめでとうございます。
幸藏さん)ありがとうございます。

―現在、日曜日のみの営業ということですが、今日(水曜日)はわざわざお店を開けていただきありがとうございます。
幸藏さん)いえいえ。オープンから2か月ほどは私の仕事が休みの水曜と日曜にお店を開けてたんですが、そうすると、他の用事ができないんでね、例えば病院へ行ったりとか・・・。それで日曜日だけにしようってことになったんです。

―お仕事とおっしゃいますと?
幸藏さん)週5日、大阪の輸入車のディーラーさんへ回送係の仕事に行っています。
お客様の車を車検や修理のために引き取りに行って、工場へ持って行って、修理、点検が終わるとまたお客様のところへお届けする係です。京都や大阪、いろいろな地域へ行きます。

―長年そのお仕事をされてらっしゃるんですか?
幸藏さん)いえ、以前は輸入車メーカーで整備士として働いてたんですが、2009年に会社がこう・・・、パタッとなりまして。そこで、今の会社が回送係を募集していたので、派遣会社を通じて行かせてもらうようになりました。

―お勤めをされながらお店を始めることになった経緯を聞かせてください。
幸藏さん)この建屋がボロボロで雨漏りもしていて、もしこの先、台風や地震

があったときの事を考えると、子供達に負担がかかると思いリノベーションすることにしたんです。工務店の方と打ち合わせをして、とりあえず二階部分をなくして吹き抜けにしようということでご覧の様にどーんと吹き抜けにして。で、そのあと、このスペースを(現在のカウンター付近)どうしようか・・・ってときに、工務店さんから「ちょっとカウンターとかキッチンなんかを置いてもいいんじゃないですかね」って言われて。で、私も、まぁそんなんあってもえーかなくらいの気持ちで進めていったんです。

―喫茶店をしようと思ってリノベした訳ではなかったということですね。
幸藏さん)全く、そんなつもりはなかったんです。何かしたいなって言うのは多少はありましたけど、そんな強くは思ってなくて、車とかバイクが好きなんでそういうのをここでいじれたら・・・とか、そういうぼやっとしたイメージはありました。私の「何かしたい」構想と、工務店さんの「何かした方がいいですよ」が合わさっていったんですかね。でも実際カウンターと流しが入ると、あ、ここでコーヒー飲めて、好きなジャズも聞ける。なかなかいいなと思ったんですよ。で、こんなかたちになりました。

開店までの道のり

―構想が固まってからのスケジュールは?
幸藏さん)一昨年(2021年)12月に工事が始まって翌年4月に完成。そこから色々準備をして、7月に知り合いや親戚をよんでプレオープン。8月に正式に・・・といっても告知等は一切せずこそっとオープンしました笑  工事が終ってからの準備がね、結構大変で、全くの素人だったので何かを選ぶにしてもどれを選んでいいのか、どういう感じでいったらいいのか・・・。でもその後たまたま行った家具屋さんや電気屋さんで何かいい感じのものがあったので、これえぇやん、これもええやんって感じでとんとんと決まって揃えました。
コーヒーのマシンとかはね、もともと家にあったやつです。うち親戚も多くてお客様もたくさん来るんで、普段からよくコーヒーはいれてたんです。

―オープン当初の思い出は?
幸藏さん)やっぱり緊張しました。お客様が来られたらまず水とおしぼりを出して、動線をどうしてとか、豆をどうしてとかね。オープンの告知もしてなかったですし、通りがかりの人が気付いて入ってきてくれるって感じで、メニューもコーヒー、紅茶、コーラくらいに絞って何とかやれてたって感じでした。

―1年経った今、いかがですか?
幸藏さん)ま、ぼちぼちって感じです。常連さんもちょっとずつ増えてきました。車関係の仕事のお客さん、あと、毎朝の通勤で知り合った方がいて、こんなん(店)しますねんって言ったら来てくれたり、観光客の方も入ってくれるようになりました。

―手作りのケーキは、営業日の前日にご準備されるんですか?
松山明美さん 以下明美さん)土曜の晩から寝やんと焼きます。夜から作り始めて5~6種類くらいかな。

―寝やんと?! 5~6種類?! でもメニューにはケーキが載ってないですね?
幸藏さん)1年間はお試しで様子みてみよってことで、ドリンク注文のお客様にはケーキをいくつか無償でお出ししてたんです。
明美さん)そう、お試し中なんで。喜んでもらえたらそれでいいの。「いいんですか?!」ってびっくりされたりしますけど笑

―はい、私もびっくりしてます笑 奥様は昔からケーキ作りをよくされてたんですか?
明美さん)はい、昔から食べるのも作るのも好きで笑 だからほんとはもっと若い時にお店をしたかったんですけど、この歳になって、これからゆっくりしようって思てたときにお店することになって・・・笑。それもコーヒーなんていれたことないお父さんがお店するって言うんやもん笑。でも何かお手伝いできるかなと思ってね。

―ご主人・・・、コーヒーいれたことなかったんですか?笑
幸藏さん)ないです笑 店するまでは仕事から帰ってきてご飯食べてお酒飲んで、しばらくしたら奥さんに「コーヒーいれて」って。しばらくしたら「何か甘いもんない?」って。そう・・・私「何もしない人」やったんです笑

―そのご主人が今は喫茶のマスター!
明美さん)そうそう笑
幸藏さん)コーヒー屋さんのHPやYouTubeを見て、豆の量、湯の量、温度、蒸らす時間等を研究して試行錯誤を繰り返し・・・の末、結構味にうるさい息子達も美味しいと言ってくれたんで、ま、何とかいけてるのかなと笑

―息子さん達はお店を始めるにあたってどのように?
幸藏さん)「ちゃんとやらなあかんで」って笑。もう、何かすごい怒られました笑 「何をどうして、どうするのか、ちゃんと決めたんか?」「ほんまに、ちゃんとできるんか?」と笑。ま、それまで何もしたことない・・・、飲食に関わる仕事なんてもちろん、それこそコーヒーなんていれたことない人間が急にそんなことできるのかって事だったんでしょうね。

―今、美味しいコーヒー、いただいております笑
幸藏さん)ありがとうございます笑。

バイク、ケーキ、あいみょん。

―奥様はケーキ作り、ご主人は車やバイク、ジャズがお好きとのことですが、「スイーツ」に関してはご夫婦で色々お店巡りをされてるそうですね。
明美さん)そうですね、ケーキ屋、パン屋巡りは結構しますね。私達、案外、食の好みが合うんですよ。嫌いな食べものも一緒やし、昔は信州までお蕎麦を食べに行ったりとかもしてたのよ。お父さんが車でどこへでも連れてってくれるからほんま嬉しい。
幸藏さん)車の運転は好きなんで、どこでも行きます。
明美さん)三田にスイーツの街があるんです。ケーキだけじゃなく、チョコレート専門店とかアイスの専門店とかいろんなお店が一帯にあって一日遊べそうな街。 そこへも朝早くから出かけて、並んでジェラート食べたり、子供に買って帰ったり、お父さんもほんまスイーツ好き。仕事のお昼休みにも色々買いに行って写真載せてるみたいで、それ(SNS)を見た友達が「幸藏さん、また何か買って食べてるで」って教えてくれるんです笑

―大阪だとたくさんお店もありますもんね?
幸藏さん)そうですね。今の職場のある大阪西区エリアも美味しいケーキ屋さんの激戦区で、よく昼休みに自転車で買いに行くんですよ。そのときディーラーのジャンパー着てるからお店の人がすぐ顔覚えてくれて笑。今から10年くらい前に、扇町のフランス菓子のお店に感動したのがきっかけで、それまでちょこちょこ買いに行く程度だったのが食べログとかで調べていろんなお店に頻繁に行くようになったんです。

―ジャズについては?
幸藏さん)ジャズはもうずっと昔から聞いてて。お店するにあたって何度も日本橋に行ってスピーカーを決めてきました。これはJBLっていうジャズにマッチしたアメリカのスピーカー。あと私の好きなアーティストのポスターを取り寄せて飾ったりしてここは、ま、私の趣味的なスペースでもある訳です。だから家に帰って食事を終えたらもうここに来て、コーヒーやお酒を飲みながらゆっくりジャズを聞きます。あと、中島みゆき、あいみょん

―あいみょんも聞くんですね!?
幸藏さん)聞きます聞きます。もう1個の方のスピーカーで聞くとね、ほんと、あいみょんがその場で歌ってるかのように聞こえるんですよ。初めてYouTubeであいみょんを聞いた時からこの子すごいなーって思ってて、そしたらその後ドーンと売れて笑

―食後もここに来て・・・。この場所を楽しんでらっしゃるんですね。
幸藏さん)はい。そこがいちばん大きいです笑 自分が楽しめてるこの場所に、お客さんが来てくれて、音楽とか、車、バイク、スイーツの話をできるのがとても楽しいです。このお店のこれが美味しいよとか、パンでも総菜系やハード系いろいろありますし、お酒だったら奈良の日本酒も色々飲んだので、お話できるかなと。教えてあげられること、逆に私もお客さんから教えてもらえることがうれしいんです。

―行く行くは平日のオープンもお考えですか?
幸藏さん)そうですね、私ももうすぐ70歳になるんで体力、視力、運転の技術の問題もでてきます。お客様の大切なお車、さらに輸入車は500~600万、中には1000万する車もありますからね。年々、より慎重に運転することを心掛けていますが、ディーラーさん側の判断もありますし、いつまで契約してもらえるのか、あるいは出勤日数を減らしてもらえるかなど相談していこうと思っています。少し余裕ができてきたら、だんだんこっちがメインになってお店開ける日も増やせるかと思います。

次は釜めし?クラフトビール?

―新町ミントという店名の由来は?
幸藏さん)店名は何がいいかっていろいろまぁ、家族会議で相談して・・・。で、私、虫が嫌いなんですよ。大阪って虫あんまりいないでしょ、こっちきたら、すぐそこが河原で、蚊、蜂、いろいろいてて。今はさすがに少しは慣れましたけどね。で、そこから、ミントって虫除けになるなっていうの新町通りで「新町ミント」。
あと、ミントってお菓子にも使うでしょ、奥さんもミントのケーキを作りますし、飾りにも使ってますので。

―「虫除け」の意味が含まれてたとは笑 五條市は自然豊かですからね、虫もたくさんいます笑
幸藏さん)私は元々大阪の人間でここには養子で来させてもらったんです。ずっと会社と家の往復で朝早く出て夜遅く帰ってくる生活が長かったですから、五條のことは最近ようやく色々分かって来た感じなんです。

―これからお店で取り入れたいことや考案中のものはありますか?
幸藏さん)かき氷ありますか?って来てくれるんで、それも考えようかなと。あと、ランチ的なものができればいいですね。

―ランチ、ぜひ♪ 奥様お料理好きとのことですし。
明美さん)いや~そんなん無理やわ~笑 主人が仕事辞めて完全にここってなったらまたそのとき考えよかな~。
幸藏さん)前に釜めしとか天ぷらとかだし巻とか色々作って親戚に食べてもらったりはしたんですよ。お試しで。

―釜めし、だし巻・・・ご主人、日本酒も色々ご存知とのことですし、奥様のお料理でお酒も進むのではないですか?
幸藏さん)はい。でも手術してからは控え目で・・・。私3年前に大病してね、それからいろんなことをぼちぼちしょうかなって考えになったんです。
明美さん)そう、病気してね。10キロくらい痩せたよね?お父さん、ここ(五條)に来てくれて今まで一生懸命、頑張ってくれたから、これからの人生は自分の好きなことしてくれたらいいと思ってね。
幸藏さん)病気してへんかったらこんなんしてへんだかもね笑
明美さん)
バイクで走り回ってたんちゃう?笑
幸藏さん)そうやな~
。休みならツーリングとか?
明美さん)偶然かもしれないけど、車好き、音楽好きな人が来てくれたり、あと今度カフェを始めたいって方が来てくれたことがあって、とっても話が弾んでお父さんも喜んでるのを見ると嬉しくて。だから私はちょっと出てきてお手伝いさせてもらってるだけ。
幸藏さん)今、クラフトビール巡りも楽しみのひとつで。私に資金力があったらねぇ、新町でクラフトビールのお店もしたいんですけど・・・笑

―ぜひ、クラフトビールのお店してください!その時はまた取材に来ます!笑
幸藏さん)そんなん無理無理~

―五條市についてどういったことを感じますか?
幸藏さん)大阪から最初来たときはなんて静かなとこなんだと。 風景や街並みも綺麗で大阪のガヤガヤが当たり前だった私にとっては静かだなーという印象でした。
明美さん)私はずっと暮らしてきたからそんなんも当たり前に思ってた。交通の便が不便やなと思ってましたけど。
幸藏さん)私が五條に来た頃は、まだ電車の本数も結構あったけど、今はかなり減ってるでしょ。
明美さん)雨とか風でよく電車停まってるでしょう?あれは困るよね、通勤、通学の人が難儀してるもん。そういうの改善策考えてあげてほしいよね。
幸藏さん)交通の便ね・・・ま、不便だからこそ、この風景が保ててるかもしれないですしね。大阪はやっぱり雑踏の中という感じですからね。今はアマゾンとか楽天でどこに居ても何でも買える時代だし、住むにはこういう街がいいかもしれませんね。

―幸藏さん、明美さん、本日はありがとうございました。

喫茶 新町ミント
  住      所 〒637-0043
奈良県五條市新町1丁目11-6
  営   業   日  日曜日
  営 業 時 間 10:00~17:00
  駐 車 場

☆スタッフHのすぽっとwrite☆

「お試し中なんで・・・。」そういって出してくださったケーキはどれも本格的。
なかでも初めて食べたミントのケーキが美味しくて印象に残りました。
美味しいコーヒーとケーキをいただきながら教えてもらったスイーツ、パン、お食事、たこ焼き・・・の美味しいお店など、おふたりのその情報量といったらほんとにすごくて、取材後もペンが走る走る笑 いや~お腹も心も情報も満たされました。

これから私も忙しくなりそうです。教えてもらったお店、「お試し」に行かないと♪

 

 

第69回 Cafeことほぎ 桝田小百合さん 園田ひとみさん 森本早苗さん

ここが「繋がり」の場所であれる幸せ お客様も私達も

重伝建五條新町通りの起業家支援施設「大野屋」で前身の「町家カフェゆるり」を引き継ぎ再スタートした「caféことほぎ」。古民家を改装したお店は重厚で風格ある外観、梁や柱、また格子戸越しに入る光、見える眺め等、日本の伝統的な美しさがあふれている。そんなカフェを日替わりで?営業する3名の女性スタッフにインタビューさせていただきました。

 

来てみたらここでした

―「町家カフェ ゆるり」を引き継がれた経緯について聞かせてください
園田ひとみさん 以下 園田さん)「ゆるり」は社会福祉法人正和会が営業していました。5年間営業させてもらったんですが、正和会の本業の方が忙しくなってきたということもあり一旦5年という区切りで撤退しましょうということになりました。私達は正和会の「カフェ担当」で「ゆるり」の時からのスタッフだったんですが、撤退すると聞いてとても残念に思いました。顔馴染みのお客様もいてくださいましたし、ここがまた空き家(空きスペース)になってしまうな・・・って。そこで3人で話合って、正和会から離れて自分達だけでやってみようかということになり、正和会に相談し承諾いただきました。それで店名を「ことほぎ」と変えさせてもらって再スタートしました。

―では皆さんはもともと正和会の職員さんだったんですか?
桝田小百合さん 以下 桝田さん)いえ、私はハローワークで「カフェのスタッフ募集」という求人を見て応募したんです。そこで正和会というお名前を見たものの、正和会さん自身がカフェを始めるとか、場所がここだとも思ってなくて、多分、正和会の施設内にカフェがあって、そこで働くのかなって思ってて。それで来てみたらここで働くんだって分かって笑。

園田さん)
私もそんな感じだったような・・・笑。

ーでは、皆さんは「ゆるり」のスタッフ募集がきっかけでお知り合いになったんですね。以前からカフェのお仕事に興味があったんですか?
桝田さん)そうですね、みんな接客業の経験があるので。

―ゆるりのスタッフとして働き始めて、当時どんなことを感じましたか?
園田さん)あ、こういう形(起業家支援施設内での営業)の経営なんだと分かりました。今までの経験のあるカフェとは違って、色々制約がある(カフェスペースで提供できるメニューの制限、営業日が決まっている等)ことがわかりました。その中でも自分の今までの経験を生かしてお仕事させてもらおうと思いました。

―前身の「ゆるり」と現在の「ことほぎ」、何か違いはありますか?
皆さん)そんなに大きな違いはないですね。

園田さん)
自由にできる部分があることですね。今までは五條市の規約の中のさらに正和会の規約の中での営業でしたが、今は例えば、自分が今日はこのメニューにしようと思えばそれができるとか。それ以外は特に違いはなくて、だからこそといいますか「ゆるり」時代のお客様が引き続き来てくださるのでそれがとても有難いですね。「ゆるり」を始めた頃は観光客を含めそんなにお客様も来てくれなかったんですが、5年間でこのお店のことを知っていただけて徐々にお客様が増えてきました。「ゆるり」の5年間があったからです。名前は変わりましたが、以前と変わらずお馴染みのスタッフが引き続きお待ちしていますので・・・とお客様には伝えています。 

―「ことほぎ」という店名の由来は?
園田さん)3人で候補を出し合い、ずらっと並べた名前をいくつかに絞りました。その中で「ことほぎ」という言葉は「寿ぐ(ことほぐ)」というおめでたい言葉だし、響きも良いなと。おめでたい言葉で少しでも新町通りの活性化につながればってことで「ことほぎ」に決めました。

 

2つの顔

―ことほぎは「日によって店主が替わり、「meguruめぐる」と「musubiむすび」2つの顔をもつcafé」だとうかがいました。そのあたりについて聞かせてください。
桝田さん)「ことほぎ」として再スタートするにあたって、それぞれの両立していく仕事や家庭の事情を考えるとここの規約通りに(定休日(月曜日)以外は必ず開店)お店の営業を続ける自信がなかったんですよね。私は家が農園なのでその仕事と、このカフェの仕事、そして介護などもありますし・・・

森本早苗さん 以下森本さん)
私はお二人のサポートという形で働かせてもらっています。

桝田さん)
それぞれの事情を踏まえると、二人で交替制にすれば無理なく営業を続けられるんじゃないかってことで。でもどうしても無理な時は森本さんがサポートしてくれるので、3人で協力してこのスタイルでやっています。それと、それぞれがちょっと違ったメニューを出したいとか、多分そこも分かれてくると思ったので、お互いを高め合うため、また経営上や食材の管理等、別々にした方がやりやすいんじゃないかってことでこのスタイルにしました。

森本さん)お二人が急用でお店に出られないときのサポートというかたちでお手伝いさせてもらってるんですが、私はケーキ等を作る方の経験はないので、下準備しておいてくれたケーキにトッピングをしたり、飲み物を作ってお出ししたりしています。今日は桝田さん、園田さんいるかなと思ってお越しいただいた方には申し訳ないんですけどね。

―3人でフォローしあって営業されてるんですね。
桝田さん)そうですね。個人経営ではなく市の規約のもとの営業ということで、ここで一緒に働きそのあたりを理解、共有している私達で一緒にお店をやっていきませんかってとこからスタートしたので、互いにフォローしあえてるかなと思います。

―「musubiむすび」「meguruめぐる」のそれぞれの特徴や思いを聞かせてください。
桝田さん(musubiむすび)家業が柿・梅農家なのでそれを使ったものでいきたいなと思っています。ただ、柿、梅の時期は家業も当然収穫で一番忙しい時期なのでそこがネックでして・・・。
五條市の方って柿は生で食べるのがいちばんって思ってる方、多いと思うんです。五條市でも柿をメインにしたケーキや、スイーツを出されてるとこってあまりないんです。お店に来てくださる方には「ここら辺に柿売ってるとこないの?」って結構聞かれるんです。例えば駅からここまでの道中にはその案内をできるところがないので選果場を案内するんですが、そしたら選果場へ行った帰りにここへ寄って柿をつかったスイーツを食べてくれるんですよね。「柿を使ったものを食べれるお店がないのよ」って言われて、あ、それやったらここでそれをお出しして、その美味しさを分かってもらえるのがいちばんいいなぁって思って。五條市の人をはじめ多くの人に柿ってこうやって食べたら美味しいんだよってことを知ってもらいたいですし、五條市の活性化には柿をもっと宣伝したらいいんじゃないかと思っています。柿は割とご年配の方が好まれるので、若者にももっと知ってほしいなって思いますね。

―例えばどんな食べ方があるんですか?
桝田さん)生で食べるにしても、ヨーグルトに入れたりされる方はいらっしゃるかもしれないですけど、例えば、柿はクリームチーズとすごく相性がいいですし、あと、ここでは柿プリンや柿スムージーもお出ししています。生で食べるにしてもパフェにしてお出しするなど、五條の方にも知ってほしい美味しい食べ方を発信していきたいと思っています。

園田さん(meguruめぐる)私は柿や梅を桝田さんのところから分けてもらって、それをアレンジしたものをお出ししていますが、どうしてもよく似たものになってしまいます。ですので私は五條市で獲れる美味しいイチゴや桃、マスカットや梨といった果物を使ってちょっと違うものもやってみようと思っています。あと、栗なども取り入れたものも考案中です。桝田さんの「musubiむすび」とは違う特色をあえて出していきたいな・・・と思っています。

ー最近、モンブランなども話題になってますよね。ぜひ、栗を使ったスイーツも考案してほしいです。
桝田さん)柿農家の私は、廃棄されるような柿がいちばん美味しいと思っています。少し傷があるものはそこから甘味が増しますし、既に赤く色づき今から市場に出せない柿はその時が一番甘味みのピークだったりします。五條市の人は柿を袋や箱にいっぱいもらえたりってことも普通にあるので、それで十分って思ってしまうのかもしれません。広報で柿のスイーツを紹介させてもらってますが、どれだけの方に興味を持ってもらえてるんかなって思います。難しいですね。柿を五條市に発信したいのか、五條市以外の方に発信したいのか・・・、そこが揺れるところです。

園田さん)柿が大好きで毎年、柿の季節になると大阪からお越しになるリピーターさんもいらっしゃいますし、若い方でも柿が好きって言ってくださる方もいますけどね。やはり市外、県外から来ていただく方が多いです。

―定番のシフォンケーキの他に夏はかき氷も人気だったそうですね。
園田さん)奈良市の方でかき氷がブームになってきてましたし、年々夏の暑さが増してきたのもあってかき氷を始めました。シロップにこだわって特色を出していこうということで、柿、梅のほかに苺や桃のシロップを手作りし、徐々に種類を増やしていきました。すもものシロップもできて好評いただきました。

―柿や梅、すもものシロップのかき氷なんて、食べたことないです。よくある夏祭りとかのかき氷とは違うんですね。
桝田さん)そうですね。できたら五條産、できなくても奈良県産でいきたいというのがこだわりです。とっても美味しいのに廃棄されてしまう果実も、シロップ等、違ったかたちに加工することでまた美味しく食べていただくことができるので。

 

 ほっとする場所、ドキドキする場所

―日々の営業で感じることや、印象に残っていることなどはありますか
桝田さん)リピーターの方、ご近所のお年寄りの方がここでコーヒーを飲んでくれるとき、多分ホッとしに来てくれてるんだなって感じるんです。コロナでなかなか人と会えないとか、いろんな行事が中止になってるじゃないですか・・・。なので、ここに近所の人が集まって近況報告とか世間話とかしてるのを見るととても嬉しいんです。また、最近新町通りに新しくチョコレート屋さんができたり、ゲストハウスもできて人との繋がりをここでしてくれることが増えたんですよね。ここがあってよかったわ、ここでちょっとコーヒーが飲めてよかったわって言ってくださって、そういう人と人が繋がる場所として使ってもらえてるのが嬉しいです。

園田さん)先日、ご近所の方々が来られて「ここやったら感染対策ちゃんとしてるから安心やな」「近所の人と話するのってやっぱり楽しいな」「こうして1ケ月に1回集まれたら」「久しぶりにこんな感じで過ごせたわ」ってお話されてて。皆さん長引くコロナに飽きてしまってるんでしょうね。じっとしていることに我慢も限界なのかなって。ちょっとお出かけしたい、でも不安、あまり遠くにも行けない・・って感じですね。ここで集まって話ができたことにあんなに喜んでもらえるんなら、そういう場所としてこれからも使ってもらえたらなって思いました。

ー人との繋がりの大切さ、人と会える嬉しさを皆さん感じてるんですね。ご近所さんにとっても「ことほぎ」がほっとする場所として存在してる様子がわかります。園田さん)あと、観光客の方が、シフォンケーキやかき氷、柿ぷりんをお出しすると「わぁー!大きい!」とか「わぁー!かわいい!」って写真を撮って、インスタに投稿してくれたりするんです。そういった反応がとても嬉しいです。

森本さん)私は五條市で生まれ育ちましたが、今まで新町通りを通ることってなかったんですよね。それがここでお勤めさせてもらうようになって、あ、新町通りって久しぶり、あ、そういえば幼稚園の頃のお友達、この通りのこのおうちの・・・って色々思い出して、そういうのが個人的にはすごく懐かしいっていうのがありました。あと、趣味で日本中の重伝建を周ってらっしゃるご夫婦がお見えになって、「すごくいいですね」ってこの新町通りや五條市を褒めてくださるんです。私からすると、正直、すっかり錆びれてしまった・・・と思っていた場所を「いや、そこがいいんです。他の重伝建は観光地化されて、いろんなお店もあるんだけど、ここは静かに生活されてるそのままの様子がいいんです」って言ってくださって。自分の今までの間隔とは真逆の感じ方をされるそのご夫婦に、地元の者が関心なかったことに気づかせてくれた、あらためて地元を見つめるきっかけをいただけたことが印象に残っています。それから休みの日に、昔の通学路を歩いてみたり、路地に入ってみたりすると、”五條いいやん”って思いましたね。観光客の方がインスタにあげてる吉野川の写真を見ると、めちゃめちゃいいとこやんって思って笑

―新町通りはあらためて五條市を見つめる、魅力に気づかされるきっかけとなる場所ですね。
園田さん)2~3か月に1回東京から来てくださるお客様がいらっしゃるんですが、いつもカウンターに座られて、格子越しに外をながめゆったりとここでの時間を過ごしてくださいます。

桝田さん)ちょっと時間ができたら1ケ月に1回来られるときもあります。

―東京からそんな頻度で五條にこられる目的は?
皆さん)ここ、五條なんです。

園田さん)
五條に来たら、必ずここへ寄ってくださいます。五條の事は私達よりよくご存じです。金剛寺のボタンが・・・とか生連寺のてるてる坊主が・・・とか。奈良が大好き、中でも五條が大好きな方なんです。

桝田さん)奈良や五條へのルート、交通手段なんかもすごい熟知されてて、私達が色々教えてもらってるくらいですよ。

森本さん)きっかけは吉野川のこいのぼりだそうです。吉野川でこいのぼりがたくさん泳ぐ写真を見て五條に行きたいと思ったのが最初だそうです。こいのぼりをあげるところを見たかったそうで、あげる日の前日から五條市に泊まって準備されて。ここを拠点にいろいろおでかけもされますが、1~2日は五條でゆったり過ごし、河原や新町通りを歩いたり散策しながらここで休憩してくださるんです。

―こちらには展示スペースや飲食ブースがありますが、そこへ展示や出店される方との繋がりなどは?
桝田さん)いろんな方と知り合えますし、展示等も見れて楽しいですね。先日、初出店の店主さんが来られたんですが、坊主頭で髭を生やした結構体格のいい方で、もう私達最初ドキドキで、どうしようっっ(汗)、ちょっと絡みにくいかも~って思ったんですが笑、その方はその方で、帰り際に「いいんですか、僕たちなんかがここに来ていいんですか?」みたいな感じで笑。

お店は盛況でバタバタした日は私と森本さんもそちらのお店を手伝って笑 最後には色々お話して、売り上げはどうでしたか?て聞くと、「いや、違うんです、僕は人のつながりが楽しいんです。ここに来ていろんな人との繋がれることが楽しいんです」っておっしゃって。ここで出店される方にはそういうことを楽しまれる方もいてるんだなって思いました。私達も刺激、勉強になりましたね。いや、でも毎回最初はほんっとにドキドキで。お互い様子をみながら絡み始めるみたいな笑

園田さん)ここでの出店を終えた後もSNSでお互いフォローし合って、今日はここで出店してますとか近況を教えてくれるので、あ、今日はそこで頑張ってるんやなとか、ここで私達と出店者の方たちとの繋がりもできています。

桝田さん)お店に来られた方にあのスペースは何?って聞かれることもあるので、(チャレンジショップの)説明をすると、一度やってみよかなっておっしゃる方もいらっしゃいます。

歩いてみませんか 

―コロナ禍での引継ぎ、そして今もまだその中での営業かと思いますがそのあたりについてはどう感じてらっしゃいますか?
園田さん)「ゆるり」のとき、コロナ感染予防対策に対して正和会がすぐに反応、対応してくれたんです。検温、消毒をはじめ、ビニールカーテン、サーキュレーター、エアードッグ等の設置、徹底した感染対策のノウハウも教えてくださいました。その厳重な感染対策は、県の「感染防止等を行う飲食店等の認証制度の星三つ」をいただいています。ゆるりを引き継いだときからその感染対策の経験を大いに活かさせてもらっています。これからも正和会が築いてくださった感染対策の評価を維持しながら営業していきたいと思っています。

―何か困っていることはありますか
皆さん)駐車場・・・

園田さん)
お店の少し手前にあるんですが、「大野屋」と表示してるので「ことほぎ」という名前で来てくれる方にはわかりづらく、通り過ぎてから「駐車場どこですか?」って聞かれること、よくあるんです。この通りは一方通行でバックできないので1周まわってきてくださる方もいますが、諦める方もいらっしゃいます。大野屋は他の出店者様もおられて、それぞれの屋号がありますので仕方ないんですけどね。
桝田さん)新町通りにコインパーキングがあればなって思います。そしたら案内しやすいなって。皆さん観光地に出かけたときってお金払ってでも駐車場に車停めて観光しますよね。

―これからどういうお店にしていきたいですか?
桝田さん)皆さんに知ってもらって楽しんでもらえる空間にしたいですね。

園田さん)人と人との繋がりを増やしていけたら・・・その繋がりの場であれたらと思います。規模を大きくしてとかそういう野望は一切ないです笑。新町通りの活性化に少しでもお役にたてたらと思っています。ここはチャレンジショップの場所なので、いつまでも居座る訳にはいかないんですが、いつまでもいさせてもらえるようなお店になれたら嬉しいですね。

園田さん)五條市の方でも新町通りを通るのが初めてとか、滅多に通らないって方多くいらっしゃいます。24号線や京奈和もありここを通る用事がないっておっしゃるんですが・・・もしよければ、用事がなくても一度歩いてみてください。

桝田さん)ここは四季それぞれの風景を楽しめる場所でもあるのでウォーキングをされてる方、堤防沿いを散歩されてる方も、ちょっとこの新町通りをコースに入れてもらえてたら、何か楽しいんじゃないかなって思います。

―皆さん、本日はありがとうございました。

住所 奈良県五條市新町2丁目5-12(大野屋内)
電話 070-3313-9148
営業時間 10時~17時
駐車場 有 新町通り松本燃料店駐車場3台
定休日 毎週月曜日
※musubi・meguru各担当日についてはSNS、お電話等にて確認できます。

☆スタッフHのすぽっとwrite☆

新町通りを通る度、次のインタビューはここにしようと決めていながら、自称引っ込み思案?のため、外から様子をうかがうにとどまっていた私でしたが、インタビューが実現するまでに偶然にもお店へ行くきっかけをいただいたり、ご紹介いただける人との繋がりがありました。そう、私にとっても「ことほぎ」は繋がりの場でした。

インタビュー後は、もう慣れた様子でお茶しに行けるようになったのも、あの何ともいえない落ち着ける店内の雰囲気とスタッフの皆さんの温かさ・・・ことほぎがかもしだす雰囲気であることに他ありません。柿のスイーツも美味しかったですし、また新町通りを歩く機会が増えそうです。「いいやん、五條」♪