「おもてなし」ができる五條に
地域の魅力を発信し、観光を通してまちを元気にする観光協会。地元に暮らす私達が見落としがちな「まちの宝物」を掘り起こし、伝え続ける五條市観光協会を訪ね、五條愛あふれる会長の中祥行さんに、現在の取り組みや今後の展望、そして中会長個人的「五條のここが好き!」をお話いただきました。
連綿と続く歴史のある街
―観光協会の主な役割や目的を教えてください。
市内の観光事業者の振興を一番の目的としています。新町や栄山寺など、観光地のご紹介をして、観光事業の向上につながることを目指しています。役割としては大きく6つの項目があります。①観光客の誘致、②イベントへの協賛、参加、③観光の紹介、宣伝、④観光施設の整備、充実、⑤観光事業に関する機関及び団体との連絡協議、⑥会員の拡大 となっています。
―いくつかの項目についての具体的な活動内容を教えていただけますか。
観光客誘致ついては観光のイメージアップ事業ということで案内所の運営や、フォトコンテストの開催、イベントの協賛、参加については吉野川の鯉のぼりや吉野川祭り、鬼走りなどへの協力をさせてもらっています。あとはSNSでの観光情報の発信やパンフレットの配布、ボランティアガイドの実施他、案内板を設置したり観光地の掃除や草刈り等です。SNSについては、制作してからかなり年数が経ってますので、ここ1~2年の間にリニューアルも含めた計画を進めています。
―五條を代表するイベントにご尽力くださってるのですね。観光協会の組織の構成はどのようになっていますか?また会員数はどれくらいなのでしょうか?
観光協会は会員、観光案内所の職員、市役所観光課内に設置の事務局で構成されてまして、会員数は個人会員、事業所会員、団体会員合わせて現在155となっています。
―五條市の観光において、大切にしているテーマやコンセプトは何ですか?
五條市のイメージとして、古い町並みが残る「新町通り」、あるいは栄山寺からそれぞれ江戸時代、奈良時代を感じていただくことが多いんですが、実は五條はもっと古い時代の遺跡であったり、幕末から明治にかけての天誅組、それ以降は商業の交通の要所として発展・・・と、連綿と続く歴史がある街なんです。古墳時代からその後ずっとどの時代においても人が住み続けて街が発展してきたという長い歴史全体・・・、一時代ではなく、五條市の昔と今を併せてアピールしていきたいと考えてます。
―五條市の観光資源として特に推しているものは何でしょうか?
奈良県というのは重要文化財や県の指定文化財が多いんですが、中でも五條市は他の地域よりそれらを数多く持ってますので全部推したいのですが、やはり「新町通り」「栄山寺」ですね。それ以外では、新しい体験型アクティビティ、宿泊施設ではこの頃流行りの一棟貸し、お食事では大和牛や大和野菜を使ったお料理でお客様をもてなす事業者さんも増えてきていますので、五條市の「昔」も「今」も併せて推していきたいと思っています。
―観光客は年間どれくらい訪れますか?
統計的に明確な数字は現状とれてないんですが、駅前案内所の来客数は年間3,500人弱となっています。
―五條市の歴史や文化的な魅力を、観光の中でどのように伝えていますか?
例えば新町通りだと「江戸時代の街並み」ということで、どうしても江戸時代だけが前に出てしまっているんですが、先ほどの話にもありましたように、一時代のみではなく時代ごとの町の変遷というのを感じてもらいたいです。街並みを見ていただくと、建てられた時期によって「うだつ」の作りが違うんですん。様々な時代に建てられたものの「違いを感じられる」というのは、一見の価値があると思っていますので、通りをゆっくり見ながら歩いていただくことをPRしています。また観光ボランティアガイドを申し込まれた方には、そういった新町の街並みについてのお話をしながら案内をさせていただいています。
―実際、新町通りをはじめ、五條を紹介するツアーなどは実施されていますか?
「古い部分」というのが文化財的なものであること、そして広域にわたって存在しているということもあって、うまく紹介できず、ツアーとしてはまだかたちになっていません。現状できている案内としては、市内の文化財を五條文化博物館でご見学いただき、観光案内所のレンタサイクルでいろんなところを周っていただくという場所的な案内に留まっています。新町通りはお住まいされてる方もおられますので、「生活の中の観光地」という状況にあります。ご紹介はできても、全てが見学できるものではないので、例えば、内部の見学ができる「まちや館」「まちなみ伝承館」「大野屋」をご案内しています。
「中継点」の活用 と 7万人の「おもてなし」を
ー地元住民や商店街との連携はどのようにされていますか?
「五條マップ」や「五條のすすめ」(現在vol.6)で、市内の会員さん及びそれ以外の方とも定期的にデータのやりとりをしながら、飲食店、土産物店、宿泊施設などのご紹介をさせていただいています。
ー歴史以外で、例えば「食」や「自然」を活かした連携事例はありますか?
観光に訪れる手段として、電車、バス等、公共交通機関を利用される方と、ご自身の車で来られる方、この二つがあります。五條市は時間的にも経済的にも余裕がある熟年層を観光の対象とするのがマストな地域だと思いますので「落ち着いた雰囲気」というのを基本に紹介させてもらっています。ただそれだけでは楽しみを感じていただけないので、私が常々考えてきたのが「二輪」とか、車であっても「趣味の車」で来られる方を対象にしたもののご案内です。
―バイクや車好きの方に向けての案内ということでしょうか?
はい。五條は大阪中心部や関空から1時間、京都から1時間、神戸からでも1時間半・・・と、近畿圏内では非常に時間的制約が少なく来れるところです。それを活かした案内ができたらと、過去に「ホンダ二輪」が日本全国で開催するイベントを五條でしてもらったことがあるんです。そうするとその日は朝から近畿各地より多くの二輪好きな方が五條へ来られるんですが、皆さん、五條が目的地ではなく五條を中継にして十津川、高野山、吉野へと二輪を走らせます。「必ず中継点になる」ということも観光のひとつの手かなと考えています。
ー中継点であることをメリットととらえてるわけですね。イベント企画のきっかけや情報収集の方法、企画するうえでのポイントについてお聞かせください。
きっかけは単純に自分がその二輪のイベントに参加したことがあって、楽しかったからです。会議で若い会員さんを中心にいろんな意見を出してもらって、例えばオープンカーのイベントはどうだろう?など情報収集や話し合いをしています。
企画をするときは、そのイベントの対象者を『家族』にするのもいいんですが、我々が五條市の観光マスト対象者をアクティブシニア層としているように、明確な対象者を定めることを重要視しています。総論的に取り組むと、どうしても焦点がぼやけてしまうので、もっとコアな、それでいてそれなりのボリュームのあるコアな人を対象にするなど、新しい層を切り開いていくことを考えています。
ーそうですね。対象とする人や目的を明確にするのは大事ですね。
二輪は基本一人乗りだけど、五條に来てよかったって思ってもらえたら、次は家族を連れてきてくれるかもしれない。最初から「家族」を対象にすると、その1回で終わってしまうかもしれないけど、やっぱり2度3度来てほしいじゃないですか?! だからアクティビティ体験とか、美味しいものを食べてもらうとか、もう1回来ようって思ってもらえるようなものを作り出していかないといけないんです。
ー自分が体験してよかったことは、人に話したくなったり、もう一度誰かと・・・と思いますよね。
だから食べ物も名物を作りたい。五條で「ヒネ(独特の歯ごたえが魅力の親鶏の肉: 以下ヒネ)」を流行らせようとか、今までは「柿の葉寿司」しかなかったのが、「五條名物ヒネ」。 おもしろいですよね。大和野菜を使った料理のお店や、いちごパフェを始めたイチゴ農園さん等、会員の皆さん色々頑張ってくれてるので、そこにプラス新しい何か、持続性があって、「誰か」しかできないものではなくて、「みんなが」できるその地域のもの、そういうものを作り出したいですね。
ー今や五條市が全国に誇る夏の風物詩「吉野川祭り」は年々規模が大きくなってきていますね。
昨年で約7万人の来場者でした。行政や警察、各種交通機関の協力を得て、事業を進めています。規模が大きくなると来場者数も増え嬉しい反面、予算の方が厳しくなってきているのも現実でして・・・。 皆様のご協力をお願いしたいと共に、観光協会としても何か新たなことを生み出していきたいなと考えています。
ー例えばどんなことですか?
観光ブースを設置してそこで土産物の販売はどうか、商店街もその日だけ臨時ショップをオープンしてもらっては?等々、人口が減少し、事業者さんも減っていく中、観光業の方が事業として吉野川祭りに関わっていただける状況を作っていきたいと思っています。
ー市外から昼間や夕方に五條入りする方も多いですし、地元の人が商店街や新町など通りを歩く機会でもありますよね。
そうですね。7万人てなかなかの数なんでね、1日とはいえ、それだけの方が五條に来てくれて、何かしら購入してくれてる訳です。そういうことに対応できることが「おもてなし」だと思うんです。せっかく五條に来てくれたのに、「屋台で何か食べて花火見て帰ってね」じゃなく、もっと五條を楽しんで!みたいなものがあれば、喜んでもらえるし、こちらとしても嬉しいじゃないですか。
―まずはシャッターを開けてくれるとか?
そう。その日だけは商売屋さんはみんな店を開けて、何を売る・・・でなく商売をしてほしいですね。表に縁側みたいに椅子を置いてお茶を飲んでもらうとかでもいいと思うんです。
―昨年はコロナ等で長らく開催が見送られた後の再開でしたね。お祭りの日は会場だけでなく地域も活気づいてほしいですね。
そうですね。昨年は5年ぶりの開催と第50回の記念大会が重なりまして、花火の予算も倍まではいかずとも増額してましたので、かなり派手な花火をあげさせていただくことができました。本年度も開催が決定し、昨年に続き、盛大な花火を・・・と企画はしているんですが、悲しいかな昨年度で予算は全部使ってしまいまして(泣)今年も開催が決定し、我々も準備を進めていますので、皆様のご協力よろしくお願い致します。
夢は定期周遊バス
ー今、取り組んでいる、あるいは過去に行った企画で好評だったものはありますか?
これは試験的な事業として3年前から行っているものなので、好評といえるかどうかはわからないんですが、「タクシークーポン」というのをテスト的に数か月ずつさせてもらってます。内容としましては駅前案内所に来ていただきますと、500円のタクシークーポンを配布します。仮に栄山寺へ行くのにタクシー代が1,000円かかったとすると、そのクーポンご利用で500円で目的地まで行けます。栄山寺を見学後、近くの観光協会会員さんのお店で食事をされた、あるいはお土産物を規定の金額以上買っていただくと、また500円のクーポンをお渡しします。そのクーポンでまた次の観光地に行かれるも良し、駅に戻ってくるも良し、という企画をさせていただいてます。
ー観光客にとっては移動にかかるお金の負担の軽減、会員さんにとっては食事や買い物、お店を知ってもらう機会になるということですね。
そうですね。これは観光協会と商工会のコラボ事業なんです。
ー実際ご利用の件数は?
試験的なものなので、まだ数十件でしたが、これから観光地が増えてくれば、例えばいちごパフェを食べに行く・・・、これも観光なので、交通費としてクーポンを利用するのもありかなと思います。新町通りを楽しんだ後、例えば次は金剛寺へ。歩くと30分・・・、タクシークーポンを使っていただければと思います。この事業の予算いっぱいまで使えるようになれば最終的には市内の定期周遊バスを回したい。それが夢ですね。
―今後、新たに企画している、あるいは、してみたいイベントや取り組みがあれば教えてください。
先ほどの「五條名物ヒネ」もですが、新しい観光として、五條は工業団地があるので、「工場見学ツアー」を、という意見が出ています。実際、製造工程が見えるようにガラス張りにしている工場もありますし、柿の葉すし本舗たなかさんや柿の葉ずしヤマトさんは定番にはしておられませんが、柿の葉寿司作り体験をしておられます。他の市町村でマヨネーズや飴、カップラーメンの工場見学が事業として成り立っている事例もありますので、五條市としてもそういうをツアーを作っていきたいですね。
―観光を通じて、地域をどのように元気にしていきたいと考えていますか?
まず五條は元々商業の町ですし、人に来ていただいて賑やかでないと活気がない。だから、まずは観光で人を集めることができればと。人が集まれば何かお店をしようかという方が出てくる、そうすると商売屋さんが増えてきますので、そういう感じで賑やかにしたいというのがいちばんですね。
―今抱えている課題や問題点はありますか?
市内のイベントを把握できていないことです。把握できればイベントカレンダーの発信、発行、同じ日に開催予定のイベントの事前調整、タイムスケジュールの作成等ができて、より多くの方に五條を楽しんでもらえると思うのですが、現状、情報収集の仕組みが整えられていないことが問題点です。
あと、現状ご案内している観光地が旧五條市に集中している、西吉野地区、大塔地区含めた広域での案内ができていないことです。体験型を盛り込んだ西吉野の柿狩りや、五條のイチゴ狩り、大塔では歴史ある十津川豪志をご案内したいです。
―外国人観光客への対応や、案内体制はされていますか?
新町マップの英語版を作成中です。五條観光のメインストリートである新町をみてもらいたいですし、実際に外国人観光客からの要望もありましたので、今年は絶対に作成します。
―地元住民や会員、その他ご協力くださる方々に、今後どのように観光に関わってほしいと考えていますか?
もっと「観光」を仕事にしてほしいですね。土産物でもよし、飲食だとか名物とか記念品とかを作って、「五條を持って帰ってもらえるもの」っていう事業に関わってほしいですね。昔、五條で当たり前だった柿の葉寿司が、創業者のご苦労や地域の協力等色々なものが重なって、今では五條の名物になったように、五條のものを事業として観光につなげてほしい。電気屋の私も何かできないかとかねがね考えているんですが、まだいいアイデアが浮かばなくて。
―ご自身が個人的に好きな場所はどこですか?
金剛山のトンネルを超えて五條の町が一望できるところがあるんです。あの風景。好きー。(笑)
盆地全体に街が広がっていて、降りてきたら新しい町じゃなく古い町もある。好きー。(笑)あげればいっぱいありますよ。畑一面に広がる色づいた柿。いいよね~。東京だと1個千円?!もっともっと地元でも売れないかな~。ちょっと傷アリで出荷できない柿を食べてもらうと「え!? 柿ってこんな甘いん?」ってびっくりされますもん。『柿』をもっともっと推していきたい、いや推していかんとあかんよね!!
―中さん、本日はありがとうございました。
JR五条駅前観光案内所
営業時間 | 9:00~16:00 |
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休み | 年末年始 |
住所 | 〒637-0005 奈良県五條市須恵3丁目70 |
電話 | 0747-20-9005 |
FAX | 0747-20-9005 |
☆スタッフHのすぽっとらい燈☆
「いってらっしゃい」「おかえりなさい」と案内所に訪れた観光客に明るく声をかけるのは、キャリア10年以上のベテラン女性スタッフお二人。
接客や事務作業、情報発信等々、多忙な業務に加え、マスコットキャラクターのお手伝いもされるとか?!
五條愛満タンのスタッフさん達と、柿畑をはじめ五條の風景を「好き~」「いいよね~」とにこやかに話す中会長の取材を終え、私も近い将来、その魅力を『伝える側アクティブシニア』となれるよう頑張りたいと思いました。