第48回 石窯ナポリピッツァLUMBERMILL(ランバーミル)新子耕平さん 栄美さんご夫妻

一歩前へ踏み出せたこと。すべてはそこから・・・

この度、五條市住川町の木材団地で石窯ナポリピッツァのお店「LUMBERMILL」を2019年4月13日にオープンされます株式会社 玉木材の新子耕平さん、栄美さんご夫妻にお話を伺ってきました。

日々の筋トレ?と仕事終わりのお酒の美味さは人一倍

―まずは新子さんのご職業の林業についてですが、どういうお仕事をされているんですか?

(新子耕平さん 以下耕平さん)主に山へ行って木を切りそれを市場で売るっていうのが僕たちの仕事です。買ってもらった木はその後、製材所さんや建築業者さん達によって柱や梁など用途に応じて加工され使われます。そして、木を切れば当然、山に木はなくなっていきますので、植林していかないといけません。植林し、それを大きく成長させるために、草を刈ったり枝打ちしたりといった手入れ、そういったことも仕事のひとつです。

―植林してから柱などに使えるようになるまで成長するにはかなりの年月がかかりますよね?

耕平さん)そうです。野菜や米の様に春植えて秋に収穫という訳にはいかない・・・、僕達の場合はスパンがとても長いんですよね。樹齢100年の木を切れば、同じような木が育つには当然100年かかる訳ですからね。

僕が今植えている木々は自分の代では絶対切れないですし、逆に言えば僕らが今切ってる木も50年前100年前に植え、手入れしてくれた人がいたから切って出せるっていうことですからね。ありがたく思っています。

 

―山へは毎日?やはり天候によって左右されますよね?また山へ行かれると1日、作業ですか?

耕平さん)斜面での仕事、そしてチェーンソーなどを扱いますので、足元の悪い中での作業は非常に危険です。ですから、基本的に雨の日は行かないですね。
朝は8時くらいから作業始められる様に現場へ行って、暗くなる前に降りてきます。明るい間での作業ですので、「残業」はないですね。 

―ご主人の仕事を日々支えてらっしゃる奥様、毎日、お弁当を?

(奥様、新子栄美さん 以下栄美さん)
はい、山にはもちろんお店もないですから、朝起きて必ずお弁当だけは作って、あと夏場は特に水分を切らすことのない様にお茶やスポーツドリンクなどたっぷり準備します。やはり、危ない仕事なので、常に心配はしていますね。

 

―何歳頃から現場へ?また当時の思い出などありますか?

耕平さん)山へ行って「仕事の手伝い」をするようになったのは中学生の頃からですね。ま、夏休みになると、連れて行かれた・・・ていう感じですかね、その頃は。
なんせ、しんどかった・・・。車を降りてから30~40分、チェーンソー等の道具20キロ近くを担いで現場まで登ることもありますので、なんてしんどい仕事やろう・・・とは思ってましたね。杉の皮むき(杉皮は屋根下に敷いたりして使われる)とそれを運ぶ作業、これはもうかなりのもんでしたね。夏だと1日4キロくらいは普通に体重が減りますから。担いで降りてはまた登るの繰り返しで、真夏はもうほぼ熱中症ですよ。

―その当時山へ行きたくないとか、またその後辞めたいとか思ったことは?

耕平さん)うーん・・・どこかで、山の仕事なんだし、そんなもんだろうと思う気持ちがあったんでしょうか、辞めたいとは思わなかったですね・・・何故でしょうね・・・。

そうそう、ある時、これを筋トレやと思ったらえぇかなと、しんどいしんどいって思い始めたらほんまにしんどくなるんで、筋トレと思うか、20歳超えてからは、帰ってからのお酒が人一倍美味しく飲めるなっていう風に切り替えていこうと思ってやってましたね。ま、そう言い聞かせてたんでしょうね、自分に(笑)

 

―仕事をする中で、やりがいを感じるときはどんなときですか?

耕平さん)切った木が価格に反映するとやっぱり嬉しいですね。
傷を付けずにうまく切る・・・。200年製とか、過去に390年製の木を切ったことがあるんです。そのときはやっぱり緊張しますし、上手に切れたときは嬉しいし、達成感があります。 木を切る時にはどこに倒してもいいという訳ではなく、必ず倒す方向を決めます。決めないとダメなんです。これがあそこに倒れるから、それに対しどこにいれば安全かを見極め、狙ったスポット向けて倒すんです。斜面での仕事ですし、重心などの把握はもちろんケガだけはしないように気をつけないといけないんです。

 

将来なりたかったものにもうすぐなれる・・・もうなれた・・・?

―家業を継ぐことに対しての迷いや他になりたかった職業があったりとか?

耕平さん)僕は長男で、妹がいるんですけど、好きなことしてえぇよって育ててもらっても結局はそういう訳にはいかんっていうか・・・継がなあかんもんやと思ってましたね。祖父から父へ、そして従業員さん達もいてくれてる・・・。そこで僕はこの仕事したくないのでやりません、じゃ、責任感なさすぎるなと。
小さい頃から父と従業員の方達の姿をずっと見て育ってきましたので。
長男だからという理由はもちろんありますけど、継ぐのが当たり前、そういうもんだと思ってましたし、かといってやらされてるとか、嫌々やってるってことは全くないですね。

―林業をされてきた新子さんがこの度、ピザのお店「ランバーミル」を始めるということですが、どういった経緯から?また店名の意味も教えてください。

耕平さん)木を植えてから30年後、50年後、70年後にならないと価値が出ないって状況が続く中で、材木だけでは正直厳しい、他にも何かやっていかないと・・・何かできないかと考えてきた中のひとつが「きこりが作るナポリのピッツァ」です。
ランバーミルは、ランバー(木材)をミルする(ひく)要するに「製材所」という意味です。

―なぜピザを?

栄美さん)元々夫婦でピッツァが好きっていうのはあったんですけど、「製材所の敷地内にあるピッツェリア」という、木、製材所、ピッツァの組み合わせのめずらしさ、あと窯に入れる薪なども製材所だからすぐに補給できるといったいろんな意味での「融合」みたいな、何かおもしろいお店ができるんじゃないかなと思ったんです。

耕平さん)そう、基本的にはピッツァが好きだから・・・ですけどね。美味しいピッツァを食べたいけどなかなか近くに美味しいお店がない、でも食べたい・・・じゃ、自分達でできないかな・・・、やってみようか・・・ということで。話を聞いた永井製材さんがこの製材所で場所を貸してくれるってことになったんです。

―奥様は飲食関係のお仕事をされてたとか?それでピザを焼かれるということでしょうか?

栄美さん)はい、昔アルバイトをしていた時代からずっと飲食業に携わってまして、カフェでも働いていました。飲食、そして接客を通してお客様と触れ合える空間というのがとても好きなんです。ピッツァは主人が焼いて、私は接客と調理補助です。

―えっ!ご主人が!?
耕平さん)僕が作って焼きます。

―では、ご主人、ピザ作りを習いに?
耕平さん)ええ、そりゃもう、イタリアには毎年・・・笑笑 ていうのは冗談で、イタリアで修行してきた方に教えていただいたりしてます。1年以上前から生地作りの練習を始めて、友達がイタリアから取り寄せた窯で焼くピッツァの移動販売をやってるんです。それで生地を作ってはその友人のところへ持っていって焼いてもらったりしました。

―ピザの生地を?イタリア製の窯で?
耕平さん)僕らがやりたいのは「ピザ」じゃなくて「ピッツァ」なんです。

―「ピッツァ」ですね! すみません笑 ここからはピッツァと・・・笑
耕平さん)ま、僕はイタリア人なので(笑)、必然的にそう発音してしまうだけで・・・笑。宅配ピザのようなアメリカのピザをやりたいわけではなくてナポリのピッツァをやりたいんです。

―ピザではなくピッツァ、そしてお店はピッツェリアですね。

そうですよ~。ま、僕はイタリア人なので意識しなくても必然的にそんな感じですけどね笑

栄美さん)笑笑、結婚してから主人の部屋掃除してたら「イタリア人になる方法」っていう本が出てきて笑 びっくりしました!笑 なんちゅう本見てるねん!って、本気なんや、この人!って笑

耕平さん)昔からイタリアが好きで。サッカーも好きですし、車なんかもイタリアのが好き・・・新婚旅行もイタリア行きましたしね。

栄美さん)その頃はピッツェリアをするとは全然思ってもみなかったですけど。

耕平さん)漠然とイタリアが好きだったんです。イタリア人に憧れてる?なりたい?というか・・・何故でしょうね~

栄美さん)こういう形でイタリア人になれるとはね~笑

一歩前へ踏み出せて本当によかった・・・

ーこれまでどんな準備を進めてこられたんですか?

耕平さん)ピッツァは窯が重要なんです。窯の温度が重要。ナポリピッツァを作るには400℃から500℃くらいの温度が必要なんです。1年くらい前、自分達で窯造りに挑戦したものの結局思い通りのものができず、かといってイタリアから取り寄せる(大体、日本のピッツェリアではイタリア製の窯を輸入して使ってるんです)とかなりの費用がかかる上に、炉床が割れるといった今後必ず起こり得る故障時の修理業者がいないんです。どうしようかと思っていた時、日本でピッツァ専門の窯を造っているというすごい方を紹介してもらえることになって・・・。

―それで窯を造ってもらえることになったんですね。

耕平さん)はい。ただ、注文して完成後納品・・・ではなく、僕は、その窯のレンガを自分自身で組んでみたかったんです。どんな風にできていくのかという工程を見たかったし、あのドーム状になってるところだけもさせてほしいとお願いし、愛知県に泊まり込みで行って教えてもらい作ってきました。 それが今ここにある窯です。僕は本当に運がよかったです。

 

 

 

 

 

栄美さん)私達だけでは到底できなかったことがたくさんありましたけど、いろんな方に助けてもらってお店ができていってるって感じです。窯造りもそう、お店のインテリア関係や、材料の仕入れ先、本当にたくさんの方とのめぐり合わせに感謝しています。

―窯、温度が重要・・・ピッツァは生地が決め手ということですか?ピッツァはチーズっていうイメージもあるんですけど・・・。
耕平さん)はい。生地が命、生地で決まります。材料は小麦粉、水、イースト菌、あと塩。基本的に使ってる材料はそれだけですけど、混ぜ方や配分、種類によって仕上がりは全然違ってきます。好きなものができるかどうか・・・。そこでもうひとつ重要なのがミキサー。これも取寄せると高額。スパイラルミキサーが多いなか、手で練ってるような動きをするダブルアームミキサーを格安で買ってきてばらし全部オーバーホールして組み上げました。 

栄美さん)生地はほんと大事ですから、こだわってます。実は私達が好きでよく食べるのがチーズ無しの、トマトソース、にんにく、オレガノのピッツァなんです。生地の美味しさがとてもよく分かるんです。美味しいですよ、ほんと。うちのお店でもメニューに取り入れます。

―いろんなピッツェリアに食べに行かれたり?

耕平さん)行きます行きます。必ずオープン前に行くか、予約して窯の前の席をとって、それでお店の人とお話ししたり教えてもらったり・・・。気さくにお話ししてくださる方が多くて、いろいろ勉強になりました。

―どんな種類のメニューをお考えですか?

耕平さん)わざわざこの五條に食べにきてもらうんですから、他のピッツェリアとは違う「らしさ」というか、やはり五條産、地元の食材を使ったものにしたいですね。地元には水、小麦粉、豚、ジビエ、野菜や果物・・・すばらしいいろんな食材がありますので食事やお酒のあてとしても楽しんでもらえる様なものを、思考錯誤を繰り返し作ってきました。そしてだいだい完成しました。

 

栄美さん)季節限定メニュー、ドリンクやトッピングで梅や柿、フルーツも取りいれたいと思っています。フルーツはピッツァと相性がいいんですよ。

 

―五條市に、そして製材所にピッツェリアができる・・・とても楽しみです。

耕平さん)ピッツァを食べに来てもらうこと、美味しかったって言ってもらうのが一番ですが、食べてすぐ帰るのではなく、敷地内には倭人の家建築のモデルハウスもありますし、木を見て触れてもらいたい、知ってもらえたらという思いがあります。他にも例えば木工教室を開いたり、家を建てる時やリフォームの参考になるようなこと、木のテーブルや椅子を見てもらう、そして買っていただくこともできる・・・理想ですけど、やりたいなって思ってることはたくさんあります。

※倭人の家建築とは

―五條市についてどんなことを感じてらっしゃいますか?

耕平さん)僕らが小さい頃は隣の橋本市より五條市の方が発展してると思っていたんですが、今は逆転。残念ながら正直どんどん寂れてきてる感じがします。
そういうのも含めて五條市に足を運んでもらえるきっかけになればと色々考えてきた中の第一弾がこのピッツェリアなんです。大きく言えば人の流れも変えたいって思ってます。まだまだ第二弾、三弾、四弾・・・としていきたいです。

栄美さん)おもしろい場所・・・こだわった店とか、流行りを取り入れたり、なんか生き生きしてるのが伝わる・・・そういうお店が五條市にあったらなって常々思ってました。なので、これからお店を始めるにあたって、常に好奇心をもってアンテナをはって、若い子たちやいろんな方にきてもらえるように、そして来てもらったお客さん達からも刺激をうけたいなって思っています。

―今までの道のりを振り返っていかがですか?

耕平さん)お店をやろうと思ってから2年・・・。ずっとこの街で育ってきて材木だけを扱ってきて・・・やっぱり1歩踏み出すのは怖かったんですよね。
最初は怖くて何もできなかったんですけど、人間て前に歩こうと思ったらちょっとでも足を前に出さないと歩けないじゃないですか・・・ちょっと踏み出せばあとは惰性で動きだし歩幅も大きくなる・・・そんな感じで僕も一歩前に踏み出したことによっていろんな人とつながれたし、その後はパズルのピースがうまくはまるように物事がどんどん進んでいったり・・・本当に踏み出してよかったなって今、思っています。

栄美さん)めぐり合わせ、ご縁、つながり・・・、お店づくりが進む中で、つまづいたり、悩んだりしたときもたくさんの方に助けてもらって完成できたこと、本当にありがたいなって思います。

―これからの目標や夢は?

耕平さん)とりあえずは来年もお店があること、ですね。

栄美さん)五條で食べる場所といえば「ランバーミル」ってくらい、ここに来たら美味しいピッツァとおもしろい、楽しいことがあるって思ってもらえるお店にしたいですね。

 

本日はありがとうございました。

 

石窯ナポリピッツァ ランバーミル  

住  所 五條市住川町888-22
電  話 0747-22-1461
営業時間 11:00~18:00(火~木・日)
11:00~21:00(金・土)※
定休日 毎週月曜日・第3日曜日
駐車場
☆テイクアウトOK☆

※しばらくの間18時までの営業となっています。(2019/4/16現在)

 


☆スタッフHのすぽっとwrite☆

一歩前へ踏み出すこと。

その一歩がものすごく勇気がいることだけど、踏み出さなければ始まらない。
踏み出せば、必ず経験する失敗やつまづき・・・でも踏み出したからこそ
得られる、踏み出した者しか得られないものがある。
そんなことを教えてもらった今回のインタビューでした。