第49回 和風レストランよしの川・別館撫石庵   専務取締役 田中公崇さん

 

受け継ぐものを大切に、自分の味を出していきたい

栄山寺にもほど近い吉野川のほとりに佇む和風レストランよしの川と別館撫石庵。
専務取締役の田中公崇さんにお話しを伺いました。

 

祖父への尊敬、両親の背中を見てこの世界へ

ー「レストランよしの川」はいつオープンされたんですか。
昭和46年にオープンしました。

ーオープンに至る経緯について聞かせてください。
祖父(柿の葉すし本舗たなか創業者)が、柿の葉すしの商売が軌道に乗り始めた頃、今度は「地元の景色の良い所で、柿の葉すしをおいしく食べていただきたい」という思いからこの場所にお店を建てたと聞いています。

※第34回 柿の葉すし本舗たなか様インタビュー記事はこちら

 

ーまさにその思いが詰まったお店ですね!
「川の見えるレストラン」「自然対話 レストラン」と表現されてますが、店内に入ると目の前に広がるこの景色、ほんとに素敵です。

窓越しに吉野川を眺められるような良い場所がないだろうかと探していたとき、栄山寺に近い川のほとりのこの土地を見つけたそうです。

その頃この辺りは全く整備されてなかったそうです。道路の舗装もされていないうえ、五条駅から4キロ近く離れている、など厳しい条件や不安材料はたくさんあったと思います。それでも祖父がこの場所にこのお店を建て、この景観をたくさんのお客様に見てほしいという思い、時代の先を見る考えはすごいと思います。来ていただいたお客様に大変喜んでいただき写真を撮られる方も多いです。

「川」のことを聞かれることも多いのでわからないことは調べるようになりました。
「なんで、川の水はあんな色なの?」とか・・・調べると深さや太陽の角度などが影響しているんだと知りました。
「あの鳥は何ていう鳥?」鳥のことも!?笑 って思いましたけど、そういう問いかけにもお答えできたらまた会話も弾みますよね。

※このあたりの吉野川は「音無川」とも呼ばれています。栄山寺(奈良時代建立の八角堂がある)で修行中の空海が川の音があまりにもうるさいので怒って筆を投げ入れたところ、ぴたりと音がやんだという伝説に基づく呼び名だそうです。

―別館撫石庵とは?
撫石庵は昭和57年にオープンしました。同窓会や勉強会、商談や新年会など幅広く多目的に利用いただけます。予約制ですが、懐石料理をお出ししています。
撫石庵からは一段と良い景色をお楽しみいただけます。

ー「撫石庵」という名前の由来は?
当店の夏のメニューにあります「たらいそうめん」はその名の通りたらいの中に素麺、そして石が入っています。その石に素麺を撫でつけ、水気を切って食べるというところから祖父の恩師である書家の先生が命名してくださったそうです。

 

 

 

 

ー田中さんはこちらで働いて何年になるんですか?
ここで働きだしたのは最近です。学校出てから、大阪の方で13年ほど修行してまして、1年半くらい前にこっち(五條)に帰ってきました。

ー小さい頃からこの道に進もうと決めていたんですか?
そうですね。保育園の卒業アルバムには「料理人になりたい」と書いてましたね。

―それはやはりご両親の働く姿をずっと見てきて・・・ということでしょうか。
はい、そうですね、そういうことだと思います。

―たとえばどんなことを感じていましたか?また思い出などありましたら・・・。
こういう仕事ですので父も母も毎晩帰りは遅いですし、土日はもちろん仕事。まわりの子が休みの日に遊びに連れて行ってもらってるのを見て、そこは子供心にいいなぁと思ったことはありましたね。そんな中でも水曜日(定休日)には家族で外食に行ったことは覚えてまして、それはもう嬉しかったですね。祖父母はよくどこか遊びに連れていってくれましたし、このお店に来れば、従業員の皆さんがかわいがってくれましたので寂しいと感じたことはなかったですね。大きくなってからここ(お店)に来たときも昔と変わりなく孫のようにかわいがってくれて・・・。 今、自分も父親になってこの仕事をするようになって、あの頃の両親の思いがよくわかるようになりました。その反面、子供達はどう感じているのかな・・と思ったりもしますが、休みの日に子供達と遊んでいることが少しでも思い出になってくれたらなと思います。

ーその後、迷うことなくこの道へ・・・?
いえ、ちょっと迷った時期はありましたね。家族全員が飲食関係という環境で育ちましたので、何か違う業種への興味のようなものを感じた時期がありました。でも料理人になりたいという思いはありましたし、料理の道というのは若いうちからの修行や勉強が必要ということも分かっていましたので、学校を出てすぐにこの道に進みました。

「どうすれば」の問いかけ「こうしてみよう」の挑戦の毎日

―こちらでは四季を通じて地元産の新鮮食材を味わえるそうですが、例えばどんな食材を?
春は筍、夏は天然鮎、秋は柿、冬は大和肉鶏といった地産地消に取り組んだ五條ならではの食材を生かした料理を提供しています。「四季」を景観と季節料理と共に感じてほしいと思います。常に旬の食材に触れることができるのは料理人という仕事の魅力でもあると思っています。

 

 

 

 

―ではこれからの季節は「鮎」ですね。
そうですね。「天然鮎」です。お好きな方はおひとりで数匹召し上がります。
塩焼きはもちろんお造りにしても美味しいです。

 

ー最も忙しい時期はいつですか?
五條は柿の生産日本一の市でもありますし、シーズンの11月はいちばん忙しいですね。
また、春の「賀名生梅林」のシーズンにお越しいただくお客様も多いですね。

―お仕事をするうえで大切にしていることはどんなことですか?
お客様に満足してもらえることです。来てよかった、また来たいと思ってもらえるように。そのためには料理、接客等いろんなことに気を配り、対応していかないといけないなと思います。

―今、考案中のメニューはありますか?やはり試作、またいろんな工夫などされているんですか?
常に頭の中にありますね。五條、奈良の食材を使った料理を今考えています。季節によって使う食材が違うのでそこが難しいところですね。
試作はもちろんしています。料理って同じように作ってもいつも少し違うんです。火加減、材料、少しのことで変わってくる・・・それが難しいところであり、楽しいところでもあると思います。
肉じゃがを作るときは、自分は砂糖をあまり入れずに作ります。その方がその素材の持っている美味しさをより活かせるんです。
また、中華、洋食などの料理、雑誌などからも何かヒントを探し、料理で使えないかなとずっと考えてます。

ー家でも料理するんですか?
はい、しています。休日にオムライスやハンバーグなど子供が好きなものを作ります。ですがつい仕事場と同じ感覚で作るので、作り過ぎたり、床やキッチンまわりを汚してしまって妻に怒られます笑

ー料理以外のことについても「どうすれば・・・」や「してみたい」があるんですか?
それはもう沢山ありますね!笑
お客様のニーズにお応えできることや、もっとお店に、五條に足を運んでもらえるような何か、いろんな案を考え中です。
例えば春、対岸に桜が見れたらいいなぁとか、夜に花火やライトアップ・・・などいろいろ考えています。

桜、素敵ですね!

 

性格変わったんじゃ・・・?

―生まれ育った五條に帰ってこられお店を継いでいく・・・今どんなことを感じていますか?
帰ってきてまだ日は浅いですが、いろんな方と知り合い、お話しさせていただくことが増えました。それが私の中ではとても大きいですね。

「奈良のうまいもの会」に入らせていただき、より奈良の食材を扱うこと、勉強することが増えました。例えば「大和当帰葉(ヤマトトウキバ)」など、まだまだ知らない奈良の食材、調理法があるんだと勉強になります。そして農家の方、生産者の方と直接会話できるっていうのがとてもいいんです。こんな料理の仕方あるよと教えてもらえるんです。店内でお話するお客様の中にも野菜を作っておられる方がいらっしゃるので、そこでまた情報交換、広がり繋がりといった感じがとてもおもしろいんです。

今までは生産者と話す機会なんてなかったですけど、話してみて作ってる側のことを知るってこんな素晴らしいことなんだと思いましたね。大阪にいたときには体験できなかったことです。おもしろい、楽しい、自然いっぱいだし、帰ってきてよかったなって。やっぱり、私、五條、奈良が好きなんですね。

―店内でお客様と会話をされたりするんですね。
はい。できるだけ厨房から出てお客様とお話しするようにしてますね。やはり父から継いでいくということ、顔を覚えていただければと。どちらかというと人とあまり話すタイプではなかったんですけど、五條に帰ってきてからは話す機会が増えたこともあり、性格変わったんじゃ?と思うほど話すようになりましたね。私自身がお客様の好みを聞きたいと思うようになりましたし、勉強になることがたくさんあるんで。昔はこんなに人と話すタイプじゃなかったんですけどねぇ笑

ー大変なこと、課題はありますか?
やはり経営者としての仕事、先ほども話しましたように、新メニューはどうしようか、どうしたらお客様に喜んでいただけるか、夜の営業について、従業員のこと、建物や、メンテナンス関係・・・すべてにおいて考えていかないといけません。今までは経営とか考えずに厨房内で決められたメニューを作り料理することだけに打ち込んできましたが、これから「経営」に携わるうえで全体をみていくこと、それを引き継ぎながら取り組んでいきたいと思っています。こっちに帰ってきてまだ間もない私にいろいろと教えてくださる皆さんに本当に感謝しています。

あらためて気づいた存在

―五條市について感じることはどんなことですか?
昔の楽しかった思い出がまず浮かびます。子供の頃、川で魚を釣ったり、ザリガニ捕ったり・・・あるいは何気なく通っていた新町通りや五新鉄道跡。県外で過ごしていた時、五條市がTVでとりあげられていると嬉しかったです。
しばらく五條を離れ、再び地元に帰ってきたとき、子供の数も減り、過疎化が進んだ現状にやはり寂しいなって思いましたね。この歴史ある町、五條のことをもっと知ってほしい、この町に住みたいと思ってもらえるような環境があればいいなと思います。私の同級生も何人か五條にユーターンしてます。そういった感じでもっと人口が増えればいいなと思いますね。

―これからの夢、展望を聞かせてください。
古きを残しつつ新しいことに挑戦していきたいです。常に新しいものを求めるのではなく、祖父から父、そして父から僕へと受け継いでいくものを大切にしつつ自分の味を出していきたいです。

調理場の僕の位置からちょうど川が見えるんです。大阪ではビルに囲まれた中で仕事してましたけど、川を見ながら仕事できるって気持ちいいんです。忙しくて調理場でバタバタしてる時でも窓から見える川を目にすると、ふっと気持ちが落ち着くというか・・・。なんともいえない感じ。時にはカヌーをやってる姿がみえたり、笑い声がきこえてきたり。川の存在が知らず知らず大きいことに気付きました。
この川のほとりで地元に愛される 来ていただいたお客様に愛される・・・そういうお店、人になりたいですね。

田中さん、本日はありがとうございました。

レストランよしの川 別館撫石庵のHPはこちらから

 

和風レストランよしの川  別館撫石庵

 

 

 

 

住 所:    奈良県五條市小島町449-1
電   話:    0120-367-105(0747-23-0123)
F A X:       0747-25-0518
営業時間: 平 日      11:00~15:00
土・日・祝  11:00~15:00
17:00~19:30
定休日:   水曜日・第3火曜日(祝日の場合は翌日に振替)
駐車場:   完備(30台)

 


☆スタッフHのすぽっとwrite☆

川にかかる赤い橋を渡る度、自然とレストランに目がいきます。
何度かお食事をさせていただいたことはありますが、取材後、営業時間が終わった店内で目の前に広がる景観を静かにそしてゆっくりと眺めたとき、あらためて感動しました。
「音無川」の伝説、この場所へお店を建てられた経緯、受け継いでいかれる思い、田中さんの夢・・・対岸に咲く桜。吉野川のほとりで、すばらしい景観と共にまたひとりの五條で輝く人、素敵なストーリーに出会えたこと、とても嬉しく思います。

「帰ってきてよかった」「やっぱり私、五條が好きなんですよね」という田中専務の言葉。とても印象的でした。
そんな言葉がもっとあふれるような街になればいいなと思った今回のインタビューでした。