第36回 酒蔵レストラン GIROCCO~ジロッコ~ 山田健二さん

「え、もうこんな時間・・・」お客様のその一言。その瞬間がたまらない

 

漠然と・・・から夢の実現。「伝えたいこと」ははっきりとあった

 

―マスターがバーテンダーを志したきっかけは?
バーテンダーを志したといいますか、学生時代、神戸での飲食店アルバイト経験がきっかけで、その世界にのめり込みまして。いい仕事やなぁ、将来こういう仕事したいなぁってただ漠然と思ったんですよね。そこで皿洗いや接客など修業をしながら、いつか、そうですね、30歳位までに独立したいなっていう思いがあって。

―もうその頃、独立、自分のお店を持ちたいっていう目標、夢があったんですねそうですね。でも独立したいって、じゃ一体何すんねん?って話なんですけど。
五條には美味しいお酒、食材がある、でもそれが根付いてないというか、浸透してないような・・・知らない人多いんじゃないかなって。もっとその魅力を伝えたい、そしてお酒を楽しみながらそれを共有できる「大人の社交場」を作りたいっていう思いがはっきりとあったんです。それで、資金の関係、人脈や、いろんな準備も考えて30歳位までに・・・って。

―そこから開店への経緯は?
神戸からたまにこっちへ帰ってきた時は、このジロッコに客として来てたんです。ある時、オーナーから「店を任せる者がいない」と、「そういえばお前、店やりたいって言うてたな・・・」ってお話しをいただきまして・・・。もうこれはチャンス、タイミングだと。
「すぐ五條に帰ってきます!」って言いました。

―地元での独立が実現したんですね。オープンはいつでしたか?当時はどんな感じでしたか?
平成18年3月11日、たまたま僕の23歳の誕生日でして。そこからスタートさせてもらいまいた。僕も修行してたとはいえ、なかなか・・・。まともにカクテルが作れるのか、ウイスキーを出せるのか、ワインのチョイスは?料理は?って、もうほんといちからですね。いちからっていうか、勉強してきたことをかみ砕きながらという感じでした。
神戸でやっていたことをそのままここでという訳ではなく、五條でさせてもらうんですから、五條を楽しんでいただきたい、そして五條のお客さんにも喜んでもらえたら、楽しんでもらえたら・・・っていうことを常に考え、試行錯誤を繰り返しながらやってきました。

―お誕生日がオープン日、一年一年、マスターと一緒に同じ記念日を迎えてきたんですね。
そうですね。前オーナーが開店祝いにと僕がリクエストしたお店の看板をプレゼントしてくれて。その看板の取り付け日がたまたま?3月11日で。縁を感じましたし、頑張れよというメッセージなのか、それとも実はオーナーの粋な計らいだったのかなと・・・。

―この素敵な酒蔵とともにジロッコという店名も受け継がれたとのことですが、店名の由来については?

現在はナイスミドルの前オーナーさん、その方の奥様の愛称だったと聞いております。奥様の旧姓が「清水様」その「清水」から「清水の次郎長」・・・の女性バージョンということでしょうか、それで「ジロッコ」と聞いております。お会いしたことはありませんが、きっと、こんな感じの奥様だったんだろうなっていうイメージはありますね。前オーナーの「俺みたいなオヤジでも、ひとりで気兼ねなく来れるようなお店を続けてほしい」という思いも一緒に店名「ジロッコ」も引き継ぎそのまま使わせていただいています。

 

僕でなくても、ここじゃなくても・・・なら意味がないんです

 

―素敵なグランドピアノですね。お花も季節感を感じさせてくれます。もしやマスターが生けて・・・ます?

ピアノは僕がお店を引き継がせてらった時から既にあって、この素敵なグランドピアノをオブジェにしとくのでは宝の持ち腐れなので、毎週土曜日ピアニストによる生演奏をしています。バーでピアノの生演奏、想像やテレビドラマではありきたりかもしれないですけど、実際そんな場所ってなかなか行けなかったりしません?だから僕は続けていきたいですね。
花は、私です・・・笑 そんな、もう・・生けるってレベルじゃないですけど笑 お花買ってきて、切って、何となくさしてるだけなんです笑 お花のパワーってすごいですし、飾ってあるとなんか嬉しくないですか?

ピアノ生演奏とか、ふわっと香る花の香り、目の前で生ハムを切り分ける・・・聴覚、嗅覚、視覚といった「五感」に訴える・・・、ここはそういう空間でありたいんです。

―これがその生ハムなんですか?スライスした状態でしかみたことないんで!

これ、原木っていうんですけど、スペイン産イベリコ豚です。豚の足そのまま塩漬けし、燻製、熟成したものです。そのまま、あるいはサラダやピザに乗せてお出ししてます。

―お酒の種類、数はどれくらいあるんですか?
ワイン、ウイスキー、リキュール、ブランデー、焼酎などなど、お店に置いてるものだけですと300本くらいですね。

例えば、ウイスキーでも「ちょっと一杯で酔わせてください」ならストレートで、「ゆっくり彼女とお話ししたい」
ではロックで。その方のシチュエーションに合わせてお出ししたり、また、リキュールとフルーツジュースを組み合わせたり・・・と、出し方、バリエーションはもう無限大ですよね。


―「大人の隠れ家」「時を忘れる空間」というコンセプト。そのイメージがぴったりですね
お酒って楽しむもの、もしくは悲しい時はその悲しさを癒してもらえるものだと思うんですね。喜びを伝えたい、悲しみを分かってほしい、友達と語り合いたいって時に、家でもない、居酒屋でもない、この「ジロッコ」を選んでくれたっていうのは、ほんとにうれしいことですし、だからこそ、その時間がお客様にとって少しでも幸せな時間であったらうれしいなっていうのはありますね。美味しいお酒を、料理を・・・そして美味しいねっていってもらえる、そして夜中12時1時、ふと一瞬我に返り、時計を見て「はっ、もうこんな時間!」って言われた時がほんとにたまらない、一番うれしい瞬間なんです。

―オープンして12年。振り返っていかがですか?
駆け出しの頃は、お客さんが好きなこと、お客さんが望まれてることを提供する・・・大事な事であり、当たり前な事ですが、そういう「一(いち)バーテンダー」でした。ですが、それは僕じゃないバーテンダーでもできること。それなら意味がないんだと。「バーテンダー山田健二」という人間を、山田健二というバーテンダーがやっている「酒蔵レストランジロッコ」というお店をどう表現していくのかということに真剣に向き合いながらやってきました。

僕を特別な存在と思っていただけることもある、僕もお客様ひとりひとりが特別な存在だと思っています。初めてのお客様でも常連さんでも、社長さんであれ、主婦の方、先生であっても、僕にぽろっと話を打ち明けてくれる、肩書を下ろして接してくれる、ここでは僕とその方との出会いや、無二の関係性を大切にしていきたいです。

 

バターは作らないです笑。募集してます・・・弟子。

 

―料理もマスターが作ってるんですか?おすすめ、自慢の一品は?
そうですね。料理の世界に仲間もいますので、食べに行ったり、電話で教えてもらったりっていう支え、あと手間と時間をかけることですかね。和風だしで煮込んだ小芋のからあげ、あとは自家配合のスパイス仕込みの大和牛ローストビーフなど、よくご注文いただいてます。

―マスターのSNSで見ましたけど、レーズンバターも作ってましたよね?バターまで手作りなんてすごい!
「バター」は作ってないない笑 「レーズン」を自分で漬けてバターと混ぜて作ってるんです笑

―ですよね・・・笑 お酒、料理、接客、マスターひとりでされてるんですか?
そうです、そうです。忙しいです、バタバタしてしまうことも・・・ですんで、
「弟子募集」してます。

―あ、HPで見ましたよ「弟子募集」って笑

みんなに突っ込まれるんです、「正社員募集」とちゃうんかいって笑
やっぱりなんかね、志して来てもらいたいっていう思いからです。

―今までに「弟子」は?
はい、僕が育てたかどうかはわからないですけどね・・・うちでバイトや弟子を経験して独立した方は何人かいます。うれしいです。

―「大会」があって賞をとられたとか?どんな大会なんですか?

全国各地で定期的に開催されるカクテルコンペなんですが、昨年度は奈良県が開催地で「奈良支部創立25周年記念ご当地カクテルコンペティション」というのがありまして。これはもう奈良県バーテンダーとしては賞をいただきにいかないとってことで、もうひとり奈良県のバーテンダーさんと一緒に出場しました。

―どんなことを競技し、審査されるのですか?
出来上がりのカクテルの味、色、デコレーションなどは当然、靴は磨かれているかなど、細部にわたる身だしなみ、ぴしっと、堂々と・・・といった表情、立ち振る舞い、プレゼンテーション、それでどれだけお客様の心をキャッチするのか、などすべてです。ずらりと並ぶ審査員の後ろにお客様、総勢500~600人の前での競技・・・。もう、その時点で堂々たる態度なんて、無理っ(笑)
でもうれしいことに、一緒に出場した彼は最優秀賞、僕は優秀賞をいただきました。

―おめでとうございます!

―FM五條に出演されてるとか?
明日、収録です、はい。家で作れる美味しいハイボールの作り方など、ミニカクテル講座っていうのをさせてもらってます。

―マスターの一日のスケジュールは?
朝10時頃起きて、そこから食事とか買い出し、昼頃店に入って仕込みですかね、ソース作ったり、氷を割ったり、で17時半オープン、平日は深夜1時までなんで、終わって帰って食事して寝るって感じですかね。
バーテンダーっていう職業、皆さんと違うところは「用事、娯楽は仕事前」ってとこです笑
例えば、こないだ新年会したんですけど、お昼12時スタートで3時解散。その後みんなそれぞれの仕事に就くって感じです。

―趣味、またはマイブームは何ですか?
趣味はドラムやってたんですけど、今はちょっとやってないですね。
マイブーム・・・ワインですかね、それ、仕事やろって言われそうですけど、ワインですね、ワイン美味しいです。あと、野球。僕、小学生の時、野球やってたんですけど、勝つ喜びっていうのを知らずに辞めてしまって・・・今、40代前半の方達が中心のチームに入れてもらってるおかげで勝つ喜びを味わわせてもらってます。

―もしバーテンダーになっていなかったらどんな職業についていたと思いますか?介護福祉士の資格を持ってるんで、その仕事についてたと思います。

 

お酒、雰囲気を邪魔しない配慮、気づき、距離感・・・腕の見せ所じゃないでしょうか

 

―なかなか、初めてだと、あるいは一人だと、何だか緊張するといいますか・・・
確かに、一歩入りづらい空間ではあると思います。僕も初めて行くお店は緊張しますし。でもね、ある意味、その緊張感というひとつの壁があるからこそ、守られてる空間でもあるんです。だからこそ、ジロッコのコンセプトが実現できるんだと思います。一歩「緊張感、敷居、壁」だと感じるものを踏み込んできてくださった方が過ごす場所とも言えますので、その分過ごしやすい空間であるといえるんではないですかね。

―何を頼んでいいのか・・・メニューを見ても分からないといいますか・・・
そうですよね、だから基本的にはメニューはあまりお出ししません。分からないまま注文してしまって、思ってた以上にきついお酒だったり、甘くて飲みやすい口当たりでも後からすごく酔いがまわったり・・・てなると、これはもう、「いい空間」を提供できてないことになるのかなって。ですので、ちょっとヒントをいただけると・・・。

―たとえばどんな・・・?
「お食事はされました?」「好きなフルーツあります?」「きつめのお酒は大丈夫ですか?」みたいな簡単なやりとりで、ご要望に合ったものをお作りします。フルーツをたくさんデコレーションしてお出しすると、今流行りのインスタ映えに笑 もちろん僕、それ狙いじゃないですよ・・・笑、でも視覚で楽しんでもらえたってことは、この時代「インスタ映え」なんですよね笑

―ただ、お酒や料理を出すのではなく、お客様の表情や要望などをくみ取り、常に気遣う、バーテンダーはそういうお仕事なんですね。
そこが腕の見せ所だと思うんです。「マスターおかわり」って言われても、実は同じものは作らないです。「おかわり」の時の様子、雰囲気、あ、だいぶ、きてますね・・・とか、そんな時、ちょっと薄めに、あるいはレモンピールを沈めて・・・もちろんお酒を邪魔しない程度に。それだけでものすごく飲みやすくなるんです、そうすることで「何か今日気分ええわぁ」って。心地よく杯数が進むっていうのかな。ずっと同じものを出し続けると、酔いが進み過ぎたり、「しんどいなぁ」ってなることあるんです。その辺の配慮がこの仕事の腕の見せ所。まだまだ、僕もできた部類ではないですが・・・。

僕が、ジロッコが、架け橋になれたら

―バーテンダーをやっていてよかったとおもえることは?

たくさんあります。例えば、マスター彼女でけへんわ・・・て言ってた彼。次来てくれたときは彼女と一緒でした。「よかった」とか。バイトしてた子が就職して同僚と飲みにきてくれた、独立して報告にきてくれた「嬉しい」とか・・・他にもいろいろ・・・。

あとは、何と言っても人とのつながりですね。SNSで、今どこで誰が何をしているのかが瞬時にわかる時代ですけど、それがそんなに普及していなかった頃から、ここには人と人の繋がりで、情報が入ってきていましたね。あの子、どうしてる?あ、結婚して今横浜にいるよ、とか人と人とを繋ぐ役目、雰囲気作りみたいな存在になれてる?なれてたら?て感じる時、あ、この仕事していてよかったなって思いますね。

―今後チャレンジしてみたいこと、また夢は?
してみたいというより、しなければいけないことなんですが・・・カクテルコンペ出場ですね。どんどんチャレンジし続けてしっかりと結果残していろんなセンスを磨いていきたいです。それからソムリエの資格をとりに行こうと思ってます。
夢は「弟子」ですかね。ジロッコに新しい弟子が入るってことは、それもまた、つながりです。お客様の幅も輪も広がります。賑やかっていうとイメージが違うかもしれないですけど、明るいお店になれば、そして、五條を盛り上げれたらなって。僕がいうのもエラそうですけど、それが夢ですね。

―「五條」でお仕事をされてて思うことは?
個々でジロッコを楽しみにきてくれてても結局ひとつの輪になってるってこと、たまにあるんです。もちろん、ひとりを楽しんでおられるお客様がいらっしゃるときは別ですけど。人口は減ってきてますけどその分、密になれるっていうのも五條の温かさかなと思います。

―マスター、たくさんのお話、ありがとうございました。

酒蔵レストランGIROCCO~ジロッコ~
住  所 五條市本町2丁目2-2
電  話 0747-23-2605
営業時間 月~木(17:30~翌1:00まで)LO 0:30
金~土(17:30~翌2:00まで)LO 1:30
定休日 日曜・第4月曜
駐車場

 

 

 


☆スタッフHのすぽっとwrite☆

インタビュー後半は、インタビュアーというより、ひとりでさらっとジロッコにお酒を飲みに来るような女性に憧れるあまり「私でも来れますか・・・」「バーでこれはやっちゃダメなこととかあります?」などと・・・。後半は「こんな私でもね、ひとりでお酒を飲みたくなるって時あるんですよ・・・」と、質問攻めから弱音に・・・。
でも、やっぱり、マスターは、快く答えてくれましたよ!会話や動作、気遣い・・・どれも、心地良く、さりげなく・・・スマートにこなすマスター、素敵でした!!

マスター、絶対、バターも作れますよ♪