「誠、正直に」を信念に
ーパンフレット、チラシなどの商業印刷から、冊子、帳票まで、幅広い印刷物をご提案されている、大和印刷株式会社の代表取締役社長、鍵谷 嘉成さん。社長のキャリアはどこから始まっているのでしょうか。
ー大和印刷さんの創業、歴史についてお聞かせください。
私の祖父は大塔の篠原という山間深い田舎生まれで、五條の地に丁稚奉公で印刷会社に勤めていたそうです。その後、独立をして現在の工場がある場所に自宅兼会社を設けました。
その当時の印刷業は、職人さんが、油臭い匂いが漂う工場でインクまみれになりながら働いていた印象が強く、祖父から引き継いだ父親もインクで汚れた作業服で仕事をしていた姿を思い出します。そんな外見ばかりを見て育った私は、単純に絶対家業は継ぎたくないと常々思っていたんです。
ーでは、なぜ印刷業を継ぐことになったのでしょうか?
昭和59年、私が19歳の時に、創業者であった祖父が亡くなり、その2年後に父親も病気で亡くしてしまいました。21歳大学3年生の時でした。これからどうしようか悩んでいた時、大半の親戚たちは、「今の世の中大学は卒業しておかないと!」と、このまま学校を続けることを勧められました。でも、ある人に、「1から商売を立ち上げるのは大変なこと。今、これだけのお客さんがいてくれるというのは、まったく有り難いことや!」と言われたことに、家業を継ぐ決心がついたんです。大学の単位も足りて無かったのも事実ですが…(笑)。
ーそうこうしながら、当時通っていた大学を中退し、後を継ぐことに。
家業を手伝っていた母親と一緒に、父親の初七日もそこそこに、家業を継ぐことの挨拶回りをしたことを思い出しました。もちろん、継ぐ気持ちもなかったので、「印刷」の右も左も分かっているはずがありません。ましてや、当時はパソコンなど都会では出始めの時代で、五條の地では「活版印刷」が中心で、活字を集め、それを組み合わせて印刷するというのが主流でした。その組み合わせを専門に行う職人さんもいましたが、到底私なんかの素人にすぐできることなどありえませんでした。それで思い切って自分たちもパソコンを入れて、少しでも印刷を新しい手法で取り入れていこうと考えました。
―と、鍵谷社長。では、鍵谷社長の仕事に対する信念の根本はどのようなものなのでしょうか?
自分が継いで間もない頃、ある人に言われた『嘘をつくなら、全て嘘をつき通して生きていきなさい。それができないなら、誠、嘘を言わずに正直に生きていきなさい。』という言葉でした。
私自身、何処か他の場所で勤めた経験がないですし、今まで自身の思うように仕事をしてきましたので、世間の人から見れば、どこか『ゆるい』と思われる面は多々あったでしょうね。でも、私は嘘をつきながら世の中を渡っていこうと思ったことはありません。ある程度、『方便』としての嘘はありますが(笑)。ですから、お客さんに対してはもちろん、周りの誰に対してでも正直にしようってね。それが、仕事だけでなく、人生において私が大切にしていることですかね。
ー今でも、社長自ら印刷の作業をされるのでしょうか?
私どもは家内工業の会社ですので、誰が専門にこれをするとは限っていません。もちろん、私も作業を行っています。我々の仕事は、仕入れたものをそのままお客さんに納めるのではなく、まったくの無地のものから、加工(版下・製版・印刷・製本等)をし、納めさせていただく仕事ですので、それぞれの工程において、専門の機械が存在します。そのすべてが仕上がって製品として完成するので、製品までの納期や金額を出すのにその専門の機械を使えなくては、どれぐらいかかるのかお客さんに対してご提示できません。ですから、全ての機械は自身で使えるようにはしています。
※ 印刷機器の数々。ここからさまざまな印刷物が創られていきます。
ー印刷業にとっては今、難しい時代ですが、「大和印刷の強み」とは?
活版印刷が主流の頃は、印刷会社によって仕上がりにムラがあったんです。しかし、機械化が進んだ今の時代においては、どこの印刷会社も仕上がりには大差がありません。(職人が行うのではなく、機械が行う。)私どもにおいては、請け負った仕事については、外注はせず(よほど特殊なものを除いては)基本的には自分たちで賄えるようにしています。ですから、納期を早くすることはもちろん、お客さんのきめ細かい要望に応えれることができるということが強みでしょうか。
ー社長、本日は本当にありがとうございました。
チラシ、新聞、パンフレット… 私たちの身の回りには様々な印刷物が溢れています。しかし、現代はITの進歩により、情報はWEB全盛の時代を迎えています。そして、WEBの世界においては、ホームページはボタンひとつで簡単に情報が切り替わりますが、印刷物はそれができません。また、一度印刷した印刷物は簡単には直せません。これこそが、WEBの世界にない、印刷物の「重み」であり、鍵谷社長の「誠に正直に」という信念に通ずるところがあるところがあると感じました。私も鍵谷社長のように「誠に正直に」日々の仕事を取り組みたいとより一層感じました。