第18回 樫塚養鶏場 樫塚 凱一さん・君子さん夫妻 

「大切に育て上げること」 それが私の仕事であり、モットーです。

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―樫塚さんはいつから養鶏をしているのですか?

樫塚さん)父が昭和25年頃から鶏を飼い始め、私が継いでやり始めたのは昭和36年頃です。昔、この辺り旧阪合部村では「100羽養鶏」といって副業養鶏が取り入れられたんです。専業の米作に加えて副業として畜産を取り入れようということで農協を軸に副業養鶏者300人くらいが、各100羽ずつ鶏を飼い卵を協同出荷していたんです。

 

―樫塚さんの養鶏場の鶏も卵を産ませる鶏なのですか?

樫塚さん)うちも昔、採卵鶏を2000羽ほど飼っていました。昭和30年代、池田勇人内閣の所得倍増政策など、日本が一気に高度経済成長を遂げた時代・・・、昭和39年の東京オリンピック開催に向けその頃普及し始めたカラーテレビを買おうと皆、仕事に励みましたよ。ところが、オリンピック終了後の景気は悪化、養鶏も大不況に見舞われ、昭和42年、採卵鶏から当時奨励されていたブロイラーに切替えました。しかしその後ブロイラーも不況となった為、平成10年に「大和肉鶏」に切り替えたんです。

 

―「大和肉鶏」とはどういう鶏なのですか?

s-大和肉鶏樫塚さん)「大和肉鶏」(以下 大和)は奈良県が作り出した地鶏です。地鶏とは在来種の鶏の血が50%以上入っている鶏で、大和は名古屋コーチンとニューハンプシャ、シャモの3種の掛け合わせにより誕生したんです。とても歴史のある大和は今では奈良県の特産品としてブランド化されています。すき焼きや水炊き、焼いて塩を振って食べるなど、シンプルな調理で、大和の美味しさが味わえます。

 

―ブロイラーと比べてどんな点が違うんですか?

樫塚さん)ブロイラーは60日で出荷、目方は平均3.5㎏・・・に対して大和は130日以上飼育、で約3kg。大和はブロイラーのように大量飼育しないうえ飼育日数もブロイラーより長い。ブロイラーに比べると当然飼料効率は悪いです。しかし、生産性が高くても販売単価が安いブロイラーより、グルタミンなどの成分を含み、甘味、コク、肉のしまり、適当な脂肪のある大和の方が美味しく販売単価も高いということです。

 

―今、何羽の鶏がいるんですか?

樫塚さん)7000羽~8000羽かな・・・毎月2000羽入荷して、2000羽出荷します。
昔はもっと多かったですよ。

 

―毎月ひよこが2000羽入るんですか?!どこから仕入れるんですか?

s-DSC00994樫塚さん)ええ、でも一気に2000羽ではなく、何回かに分けてですよ。今日は800羽、次は900羽というように。
奈良県畜産連合会というのがあって、そこにはうちの大和、養豚のヤマトポーク、大和牛や蜂などそれぞれの組合があります。なかでも大和肉鶏協同組合だけが飼料もひよこも協同購入、年間10万羽協同販売しているんです。
地鶏といえば名古屋コーチン、秋田の比内鶏や九州薩摩鶏は有名ですが、大和も7位くらいにランクインしてるんです。大和の直売店や販売店、ネット販売、そして大和を使った料理店などで美味しいと評価いただいているということです。

 

―ヒヨコが来るとまずどんなことをするんですか?

 

樫塚さん)ヒヨコが来てからというより、受け入れる前に鶏舎を掃除をしておかないと。清掃し乾燥させ消毒して準備をしておきます。そしてヒナを迎え入れ数日間は温度や湿度管理に気をつけることです。ガスブルーダーで室温を調節します。ガスブルーダーも私が作ったのがあるんで後で見てください。

 

―養鶏場の一日の流れは?

樫塚さん)ブロイラーを出荷していた頃は大阪まで搬送していたので午前3時には家を出ていました。大和は県内に出荷なので、4時半頃出発かな。それで7時頃帰宅し、鶏舎を見回ります。温度調節、換気、鶏の様子をチェックします。そして機械物のチェックもかかせません。給水、給餌・・・何もなければもちろんいいのですが、壊れたりすると、大変ですから。出かけてると、○○が壊れたとか電話があったりもしますし・・・だから、夫婦揃って旅行に行ったこともないですよ。鶏達に、今日と明日は食べずにちょっと待っといてね・・・って通用しないでしょ(笑)

 

―故障するとどんな事になるんですか?

樫塚さん)一番困るのは給水の機械が故障して鶏舎が水浸しになること。給水につながるパイプに鶏が勢いよく飛びついたりつついたりして、装置がはずれ水が漏れたらもう大変ですよ。あと給餌の装置が壊れると何トンもの餌が一気に出てしまったりすると、それも困るしねぇ。

奥様)主人が出かけてる時、鶏舎で給水のあたりがキラッと光ったりすると水が漏れてるんじゃ?!とドキッとしますもの・・・

 

―大変なことは?

奥様)やはり、鶏舎の掃除ですね。鶏糞の処理。入荷してから出荷するまで、また出荷した後も次のヒナ受け入れまでに掃除。ひとりじゃとても無理だし、若い頃ならできたことでも、今はしんどいこともありますしねぇ。入荷時は小さいひよこがオスメス一緒にたくさん来ますが、出荷はオス、メス分けて数羽ずつコンテナに入れます。成長した鶏の出荷はやはり力がいりますし、主人も私も腱鞘炎になったりしてね。

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樫塚さん)鶏の入ったコンテナを何段も積んで鶏舎から運んだりするのもできるだけ、負担なく運べるようにとか、効率よく鶏糞を集めたりできるように考えたり、機械や器具を取り入れてやっています。畜産は、夫婦そろって健康でないとやっていけない仕事ですよ。
        樫塚さん改造作品→

 

―気をつけていることは?

樫塚さん)やはり鳥インフルエンザなどの病気です。
そのために毎日の鶏舎の見回りは欠かせない。冬場は温度を保ちつつ換気もしないといけないんです。換気不足になると病気を引き起こします。人間と同じで埃っぽいと鶏も咳くし、埃が目に入ると細菌による「目ずれ」という病気になります。ですので鶏舎に入り、鶏の鳴き方や動き、体や目などに異常がないか確認することが大事です。

 

―大和肉鶏を育ててきて思うことは?

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樫塚さん)やはり、飼った以上は健康な鶏に育てあげることです。でないと、鶏に申し訳ない。食用鶏なので最終的には・・・にしても、手を抜いたりして死なせてしまうのではなく、美味しく食べてもらう為に大事に育てあげることが私の仕事でありモットーです。

奥さん)主人はね、やっぱり鶏が好きなんです。出荷した後の鶏舎は寂しいって・・・。そして鶏達も主人のことわかってるんじゃないかしら・・・。主人はそんなことないって言いますけどね(笑)大和はとても綺麗な鶏・・・、そしてやっぱり美味しいですよ。

樫塚さん)当然「好き」がなければできない仕事ではあるけど、ペットではない、食用鶏を何千羽と飼育していくには鶏がかわいいとかかわいそうという感情とはまた違うんですよね。やはり、経営として成り立つ楽しさもなければできない仕事ですよ。

奥様)主人は朝から晩までフル回転してます。養鶏はもちろん、ライスセンターの方の機械やら何やら。主人は機械が好きでね・・・作ったり、改造したり、トラクターとか、もう色々本なんかも見たりして、今度こんな機械入れよと思てるとか・・・
「お父さん、今からそんな機械入れて、歳足らんよ」って笑ってるんです(笑)

 

―取り組んでいきたいことは?

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樫塚さん)後継者を育てること。これが最大の課題です。鶏舎も古くなってきましたし、この辺りも過疎化が進んでいます。そのためにもここに住んでやっていってくれる後継者が必要ですね。なかなか、途中からこの仕事に飛び込むには難しい業種ですけどね・・・。

 

―五條市で長年養鶏業を営んでこられてますが

樫塚さん)五條市は昔から農業に熱心で、畜産にも力を入れてきた町です。だからやってこれたという思いはありますね。時代や環境の変化により、また後継者がなく続けることが不可能になり畜産が衰退しつつあることは残念ですが、私自身、五條市だからやってこれたという思いです。

では鶏舎を見にいきましょう。

ということで、鶏舎とライスセンターも見学させてもらいました。

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鶏舎の各扉に書かれた入荷日とヒヨコの入荷数。扉を開けるとピヨピヨと鳴き声が賑やかです。黒いヒヨコはシャモ系の色が出ているヒヨコだとか。

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鶏舎毎、だんだん成長した鶏が見れました。鳴き声もコッコ、コッコ。部屋の灯りも成長するにつれて暗くなっています。明るいと喧嘩したりして体に傷がつくそうです。

 

s-DSC01002部品を組み合わせたり、熱による変形を防ぐため、穴をあけるなど改良を重ねた樫塚さん特製ガスブルーダー。
この熱により、鶏を寒さから守るそうです。

 

 

そしてライスセンターでは、負担なく効率よく仕事ができる最新機械もあれば、手を加え30年以上も大切に使い続ける機械、また樫塚さんの機械好きがわかる中古からの改造作品、「発想」から生まれた作品等いろいろなものを見せていただきました。

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樫塚さん、君子さん、本日はありがとうございました。

大和肉鶏に関するHPはこちら

 


スタッフHのすぽっとwrite☆

鶏舎の見学をさせてもらった時、ヒヨコの部屋では何とな~く優しげな口調でヒヨコ達に話しかける樫塚さん。そして、成長した大和肉鶏の部屋を見せてもらう時は、いきなり扉を開けて鶏達がビックリしないように、戸をノックし「おーい、入るぞ~」と声をかけてから入る樫塚さん。そして、お好きだという機械類は、何でも扱い、改造したり、作ったり・・・アイデアとそのバイタリティに驚きの連続でした。次はどんな発明をされるのでしょうか(笑)