変わらない店でありたい。スパゲティーハウスとしても
ライブハウスとしても。
ースパゲティーハウスシエロさんがお店を開店されたのはいつですか?
(竹村輝彦さん 以下同)平成3年12月18日です。
―店名シエロというのは?
イタリア語で「空」という意味です。言葉の響きや意味などから考えて決めました。
高校卒業後、名古屋の専門学校時代にスパゲティー店でアルバイトをしていたんです。そこで、注文がきてから茹でるスパゲティーは保存がききロスがないというところに魅力を感じたんです。パスタは茹で時間が大事。さらに茹で上がりと同時進行の調理の手際良さやスピードが大事です・・・でも、もともと手先は器用な方かなと思っていましたし、自分にもできそうかな、いずれはこの仕事いいかもなぁと思ってたんです。そして、何よりそのお店のスパゲティーが美味しかったんですよね。それがきっかけですぐにお店をオープン・・・ではありませんが、そのお店でのアルバイト経験が結果的に今のこのお店の原点です。
―専門学校とは何の専門学校だったんですか?調理関係ですか?
いえ、僕は中学時代からギターが好きで仲間とバンドを組んだりしてたんです。高校時代はもちろん軽音楽部。市民会館を借りて自分達でライブをしてりしてました。「ギター小僧」だったんです(笑)
高校3年の進路を決める頃、ミュージシャンは無理だけど、楽器を触っていたい、楽器業界、音楽業界へ進みたいという思いから専門学校への進学を決めたんです。専門学校で技術を習得してから楽器店に就職しようと。そこでピアノ調律師としての技術を取得し、晴れて念願の楽器店へ就職した訳です。
―楽器店でのお仕事はどうでしたか?
和歌山県の楽器店でピアノ調律師として一日に数件お客様宅を訪問していました。ですが、三年で退職しまして・・・。その後、母校の専門学校の講師にならないかというお話をいただき名古屋へ戻り二年間勤務しました。
楽器店、楽器専門学校講師・・・共に大好きな楽器業界ではあったんですが、正直その業界の賃金の面で疑問を抱くようになり、飲食業への転身を決め外食産業の会社へ就職しました。
―飲食業への転身はやはりアルバイトしたスパゲティー店での経験が影響したんでしょうか?
そうですね。あの時、いずれはこの仕事も・・・と魅力を感じた職業でしたからねぇ。
それでもう一度、そのバイト先の親方のお店の門を叩き、一から教えてくださいとお願いしました。お店をするならいろんな飲食業の事を知っておきたい、習得したいと思い、親方のお店とかけもちでドイツ料理のフルコースレストランやコーヒーが美味しいと人気の喫茶店で修業兼アルバイトをしました。
―そしてその後、オープンということですね。
両親がここに土地を所有してましたし、僕は長男なので、お店をやるなら地元に戻ってこないかという両親の思いもありまして、僕が27歳の時に「シエロ」をオープンしました。
―オープン当初はどうでしたか?
当時、スパゲティー専門店というのは五條にはありませんでしたし、そんなに宣伝もしませんでしたが、口コミなんかでお客様も増え幸先のいいスタートでしたね。一度来てくれたお客様が5回6回と来てくれる常連客さんとなり、オープン当初から今もなお来てくださるお客様もいらっしゃってありがたいことです。
逆にスパゲティーだけでなく、もっとレストランみたいなメニューをとか、配達もしないとやっていけないんじゃない?って声もありましたが、僕は僕自身が親方の店で学んだことや親方のやり方を見てきたので、僕はこれでいくんだ、やれるはずだと自信を持ってやってきました。
―今、好きな楽器とのつながりは?
職業としてはやはり調律師の仕事からは離れず、今もお店の定休日の火曜日に細々とやってます。やはり、他の楽器店との兼ね合いもありますし、大題的には宣伝もできませんが、知り合いの方の紹介のそのまた紹介であったり、僕のブログを見てくださってという感じですね。
趣味のギターは、今でもやってますよ!さらにギターの製作の方もやってるんです。
↑取材時、オーダーを受け製作中のギターを見せていただきました。
その後完成したギターは、夏のある日、マスターのもとから嫁いでいったそうです。
―シエロさんでは店内でライブが行われているそうですね。詳しく聞かせてください。
はい。プロのミュージシャンによる「ソロライブ」を毎年秋に、そして、私と同じような趣味を持った仲間との間で始まった「シエロ音もだちライブ」を毎年春に開催しています。
―プロのミュージシャンとは?
日本を代表するアコースティックフィンガースタイルギターの名手、岸部眞明さんにはもうかれこれ10年近く来ていただいてます。
有山じゅんじさん、加川良さんにも来ていただいたことがあります。
―岸部さんとの出会いは?
若い頃は仲間とバンドを組んでやっていましたが、みんなそれぞれ仕事が忙しくなったりで時間的に合わなくなってきたんです。私も家でひとりでギターをやるようになっていた中で、愛読書「アコースティックギターマガジン」で岸部さんを知りました。彼のCDを聞いた時衝撃を受けたんです。ボーカルのないアコースティックギター1本で奏でるメロディの素晴らしさに。そして、たったひとりでも、たったギター1本で好きな時間に好きなだけ練習もできて、こんなすばらしい音楽ができるじゃないか・・・と思いどんどんはまっていった訳です。
―そこからどのようにしてシエロさんでのソロライブを実現させたのですか?
岸部さんが全国各地のライブハウスやライブ喫茶をまわって演奏されてるのを知り、いっそのこと、うちの店にも呼ぼう!と思ったんです。
そこからは、SNSを通じて既に岸部さんのライブを行っているライブハウスの方達とつながりを持つことから始まり、自分自身も各地のライブ会場へ足を運び、音響設備や機材、いろんなことを学び習得して、そして岸部さん本人とお会いし、シエロでのソロライブ出演依頼やギャラの話まで直接交渉しました。バンドをやっていたのでもともと持っていた機材に加えて新たに大きなスピーカー等も購入し、セッティングも自分で行い、そしていよいよ岸部さんがうちの店に来てくれることになったんです。今年の秋で第11回目を迎えます。
―自身のお店でのソロライブ開催、いかかでしたか?
既にライブをしたことのあるライブハウスなら、固定ファンも来られますが、シエロはいわば新参者です。なので、最初は身内や知り合いを呼んでのスタートでした。ですが、2回3回となるにつれ、岸部さんのファンはもちろん、シエロならではの近距離のステージ、音響に評価を得、遠方からのファンも来られ、定員30名ほどですが、毎年満員です。毎年ライブ開催が決まると僕自身はもちろん、真っ先に連絡をくれるほど心待ちにしてくれている方もいるんです。
―では、「シエロ音もだちライブ」とはどんなライブなのですか?
プロの方のソロライブに対して、シエロ音もだちライブというのは素人のライブです。こちらももう第9回目を迎えました。
プロの方のソロライブを開催していくにつれて、ライブに来てくれた方がその後個人的にお店に食べに来てくれるようになったんです。「マスター、こないだはありがとう」って感じで。で、会話を交わすうちに「実は私もギターをね・・・」って話になったりすると、あ、同じ趣味なんだって・・・。そんな方が一人二人と増えていき、同じ趣味を持ち、気心知れたフィーリングの合う人達との和ができてきまして。それで、プロの方と同じ機材で同じ状況でライブする?って話になって(笑)
自分が音楽やギターを好きってだけではやっぱりダメで、プロの方を招いてここでライブをしたっていう経験がシエロ音もだち仲間との道筋になったんです。
―マスター自身も演奏を?音もだちライブはどんな感じなのですか?
はい。僕も岸部さんのようなインストロメンタル(ボーカルのない)で演奏します。
去年よりすごく上達してる人、去年からの方向性を変えた演奏の人、1年ぶりのその日当日にならないとわからない驚きがまたおもしろく刺激になり、もっと上手くなりたい、もっといいステージにしたいと思うようになるんですよね。
↑この中にはマスターが製作したギターが4本 もあるとか!
マスターが作ってるのはスパゲティだけじゃなかったんですね!
ちょっと変えてみよう、驚かせてみよう、出演者達はその日に向けて毎年試行錯誤だと思いますよ(笑)準備も後片付けもすべてみんなでします。個性あふれるひとりひとりが好きな音楽を通じて深い繋がりが持てる・・・そういうの全部含めて「シエロ音もだちライブ」なんです。毎年レベルアップしてると思います。
―スパゲティーハウスシエロとして大切にしていることは?
そうですね・・・食材の価格が上がったり、昔と同じように仕入れられなくなったりと色々問題はありますけど、僕のモットーは「できる限り変わらないでおこう」です。メニューはオープン当初から約50種類、パスタは乾燥麺の1.6mm。流行にのっている訳でもないし時代遅れといわれるかもしれない。でも僕はこれがいいと思って始めたお店のやり方です。そう簡単には変えるつもりはないんです。うちのお店のスパゲティーを食べにきてくださるお客様がいる限りは。
―今までを振り返っての思い、また今後の夢は?
楽器が好き、音楽が好きから携わった楽器業界、飲食業への転身、色々経験してきました。
でもどれもその経験は今の僕を支えています。昔は色々と抱えていたプレッシャーに押しつぶされそうになった時もありましたが、今は人生を楽しく生きていこうと考えらるようになりましたし、今本当に幸せです。
好きな音楽をやりながら、こんな小さなスパゲティー屋だけど、みんなが集まってくれる場所になり、少々マニアックな方?(笑)には注目される場所になってきて(笑)それだけで充分幸せと思ってます。だからそれが続けばいいなって・・・。変わらずこのまま。年に一度のシエロでの出演を楽しみに日々ギターや楽器の練習に打ち込んでいる仲間とのこの環境を継続させるのが夢です。まわりからみると、僕が音楽やギター、ライブなんかをやっているのを知らない方も多いでしょうし、何か変わったスパゲティー屋のおじさん?かもしれない(笑)
でも僕は知る人ぞ知る「幸せ者」です。
竹村さん、本日はありがとうございました。
スパゲティーハウス シエロ
住 所 奈良県五條市田園3-5-7
T E L 0747-22-9333
駐車場 有
定休日 火曜日
営業時間
11:00~15:00
(オーダーストップ14:30)
17:00~21:00
(オーダーストップ20:30)
☆スタッフHのすぽっとwrite☆
楽器、音楽、スパゲティー・・・「好き」「魅力ある」と思った道に進み、歩んでこられたマスター。今もその道をたくさんの仲間と一緒に追求し楽しまれているマスター。取材時ギターやライブの話をされるときはとてもにこやかでしたが、普段は無口(だそうです)なマスター・・・。
まだまだ書ききれないマニアックな話もありましたので、気になる方はマスターにそっと話しかけてみてはいかがでしょうか♪